tシリーズ 平和安全法制③ 「ホルムズ海峡には行けるか?」(専門レベル:中)
2015年6月18日
自衛隊は、ホルムズ海峡に、機雷掃海に行けるのか。これがよく議論になっています。
昨日の党首討論を聞いていても、岡田・民主党代表が一番に持ち出したのが、この議論でした。なぜ、ここまで議論になるんでしょうか。新しい法律のもと、自衛隊はホルムズ海峡に派遣されるのでしょうか。安倍総理は、派遣できると言う。公明党は、派遣できないと言う。はたして、本当はどっちなのか、お話したいと思います。
ホルムズ海峡とは、中東のイランとオマーンに挟まれた、幅33㎞の、せまい海峡です。日本にくる石油の8割が、この海峡を通ってきます。もし、中東で戦争がおこって、この地域に機雷がまかれた場合、日本に来る石油も止まってしまいます。では、誰が「機雷掃海」を行うか、つまり機雷を処理するかですが、実は日本は、機雷掃海の能力が、かなり高いんです。「掃海艇」という、機雷を処理する船は、米国は11隻持っていますが、日本は27隻です。倍以上持っているんです。これらの船を、国際社会が困ったときに、役立てるべきじゃないか。国際社会だけでなくって、日本も、エネルギーが枯渇するという緊急事態なわけですから、掃海艇を派遣すべきではないか。これが、そもそもの発想だったと思います。
ところが、ここに問題があります。機雷の掃海は、憲法の範囲を超える「武力の行使」にあたる可能性があります。以前、湾岸戦争のあと、ペルシャ湾で日本は機雷掃海を行いました。しかしそれは、あくまで戦争が終わった後でした。戦争がまだ行われている中で、日本の掃海艇が出向いていき、機雷の処理をすると、それは海外での「武力の行使」にあたってしまいます。しかも、日本が直接攻撃されていないのであれば、この機雷の処理は、「集団的自衛権」にあたってしまうのです。今回の法案では、きわめて限定的に「集団的自衛権」の一部を認めました。その新たに認められた「一部」の中に、機雷掃海が入るのかどうか。この点について、法案をつくっていく作業の中で、自民党と公明党も、ずっと議論をしてきました。
ではまず、新たに認められた「一部」の範囲は、どこまでか。どう言う場合に、今回認められた、限定的な「集団的自衛権」を使うことができるんでしょうか。他国が攻撃されるだけでは、ダメです。国際的にいわれる「集団的自衛権」とは、友達が攻撃され、その友達を守るために、一緒に戦うことを意味しています。今回の法案でも、こうした友達を守るための「集団的自衛権」は、認めません。どういう場合なら認めるかというと、あくまで、「自分を守る」という目的があるときだけなんです。
条文やこれまでの答弁を、だいぶ簡単にして申し上げると、こういう事です。友達が攻撃された。それを、そのまま日本が何もせずに放っておいたら、日本が攻撃されるのと同じくらいの被害がでるとき。日本という国の存立、国そのものが危機となるような、国民の皆さんの命や、自由や、日々の幸せな生活が、根っこから失われるようなとき。こうなる事が、はっきりしている場合にはじめて、自衛隊が出動できます。これが、今回の法律の考え方です。その場合、まだ自分は、直接には攻撃されていません。現時点では、友達しか攻撃されていないので、「集団的自衛権」と言われるかもしれませんが、それでもこんな大変な事態なら、自衛隊が出動するのも認めよう。これが、結論です。
これについて、私の同僚の国重衆議院議員が、わかりやすい例をあげていました。ある「長屋」で火事がおこった。隣の部屋がもえている。しかも、このまま放っておけば、風下にある我が家は、火の手がうつり、焼け出されるのがはっきりしている。こういう場合なら、まだ自分の家は燃えていないけど、隣の火事を消しに行こう。今回、法案で認める「集団的自衛権」とは、こういうもんです。逆に言えば、たとえ近所の友達の火事でも、自分の家が大丈夫なら、日本は何もしない。これが、今回の法案の「集団的自衛権」の考え方です。
それでは、ホルムズ海峡の話に戻ります。ホルムズ海峡に機雷がまかれて、世界中が困っている。日本も困っている。もちろん、いざという場合の石油の備蓄も6か月分ありますが、すでに底をつき始めた。中小企業の倒産も相次ぐ。当然、こんなこと無いに越したことないですが、もし将来、こういった事態となったら、どうなるか。
それでも、今回の法案では「集団的自衛権」は発動されません。友達のためだけではなくって、自分を守るためでもあるので、認められそうですが、そうではありませ。それは、国会で、総理が何度も答弁しています。「国民生活や国家経済に打撃が与えられたことであるとか、あるいは特定の生活物資が不足することのみをもって、存立危機事態に該当するものではありません。」(平安特委 平成27年5月27日)。経済的に苦しくなっても、石油が枯渇しても、それだけでは、掃海艇を派遣できない、ということです。それだけでは、まだまだ「長屋」の火事とは言えず、ボヤくらいだ、ということです。
では、どうなれば派遣できるかというと、あくまで先ほどの条件に戻ります。日本が攻撃されるのと、同じくらいの被害があるときだけ。国民の皆さんの命、自由、そして幸せな日々を、根っこからひっくり返されるような場合だけです。よっぽどの場合です。そうなって初めて、「火事」と言えるのです。日本から遠いホルムズ海峡で機雷がまかれるだけで、日本に爆弾が落ちるのと同じくらい、バタバタと人の命が失われていく。はたして、そんな状況になるでしょうか。しかも、日本の石油備蓄が尽きる6か月の間、世界も何の対処もしない。こんなこと、有り得るのでしょうか。
公明党は、そんな事態が起こる可能性は、ほとんどゼロだと思っています。そんな事態は、簡単に想定できません。ただ、申し上げると、理屈の上ではゼロではありません。たとえば、どこかの国が米国を攻撃し、韓国も攻撃し、次は日本を火の海にすると表明している。そして、遠く離れたホルムズ海峡でも機雷をまき、世界を相手に混乱に陥れようとする。そして、世界が手をこまねいて見ている。仮定に仮定を重ねれば、絶対ゼロとはいいません。しかし、ほとんどゼロです。そして安倍総理も、実は同じ認識でいると思います。
今までの発言を整理すれば、実は公明党も安倍総理も、同じことを言っているんです。「0.000001」しか可能性が無いものを、公明党は「ほとんどゼロだ!」と言い、安倍総理は「ゼロではない」と言っている。結局、同じことを言っているだけです。それをメディアは、あるいは野党は、自公の意見の食い違いと煽っているんです。
今回認めた、限定的な「集団的自衛権」が使われる例は、むしろ日本周辺の方が、よっぽど可能性があります。北朝鮮が一線を越えてしまう。そして、日本の存立がおびやかされる。その方が、よっぽど想定しやすい例なのです。じゃあ、なんで「ホルムズ海峡」ばかりが強調されるかと言えば、それは、野党が繰り返し取り上げているからです。野党から見れば、「ホルムズ海峡」が、可能性が「0.000001」しかない「限界事例」だからこそ、「そんな可能性はないじゃないか!」と突っ込みやすいんです。そこで、野党も繰り返し、繰り返し質問をし、それをテレビや新聞で連日、報道される。だから、「ホルムズ」の事例が、突出してしまいました。
昨日の党首討論でも、安倍総理は強調していました。限定的な「集団的自衛権」を使わざるを得ない場合とは、たとえば日本の周りでなにか事が起こった場合であって、「ホルムズ海峡」の例は、「(集団的自衛権)行使の典型例ではなく(例外的に認められる可能性のある)海外派兵の例だ」と。
以上、長くなりました。結論から言えば、戦争中に、「ホルムズ海峡」に自衛隊が派遣され、「集団的自衛権」を行使する可能性なんて、限りなくゼロです。機雷掃海をするとすれば、戦争が終わった後の話です。「日本から遠く離れた国に行き、「集団的自衛権」によって、簡単に武力行使できるようになる、戦争法案だ!」、という批判は、全くの間違いだということを、はっきりと申し上げたいと思います。
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