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t良書との出会い⑨ 『戦争広告代理店 情報操作とボスニア戦争』

2015年 10月 6日



ドキュメント『戦争広告代理店 情報操作とボスニア戦争』 高木徹 著


 私の文科省時代の超優秀な後輩が、惜しまれつつも役所をやめたあと、PR会社を立ち上げました。先日、その後輩が私を訪ねてくれたので、懐かしくお互いに近況を語りあいました。


PR会社とは、「情報」によって世の中に大きな影響を与え、クライアントの目的を達成しようとする会社です。こう言われて、私がピンとこない顔をしていたところ、後日、一冊の本が送られてきました。それが、この『戦争広告代理店』です。


 第二次大戦後のユーゴスラヴィアは、「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家」と呼ばれるほど、複合的な多民族国家でした。それが。米ソ冷戦の崩壊とともに、1990年代、スロベニアやクロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナの各共和国が相次いで独立していきます。とりわけ、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国では、民族が入り組み、ボスニア紛争と呼ばれる激しい内戦が繰り広げられました。


 長い歴史の間、共存しあってきたセルビア人と、モスリム人、クロアチア人でしたが、3つどもえの戦いの中で、怒りと憎しみがこの地に拡大して行きます。そんな中、モスリム人を主とする「ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国」は、ミロシェビッチ大統領率いるセルビア人勢力との闘いでの逆転を図るため、有能な米国のPR会社に仕事を依頼します。


 最初は、東ヨーロッパの小さな地域での内戦として、誰も見向きをしませんでした。ところが、「情報」の収集、分析、そして効果的な発信、見せ方など、PR会社の戦略によって、ボスニア紛争はどんどんと国際社会の注目を引いていきます。3つどもえの戦いであったものが、いつのまにか国際社会では、「セルビア=悪」、「ミロシェビッチ大統領=悪」というレッテルが確定していきます。そしてついに、ユーゴスラビア連邦は、国連から脱退させられ、ミロシェビッチ大統領はハーグの「国際戦犯法廷」に送られる運命となります。


 この過程は、ぜひ読んでいただければと思いますが、「情報」戦が、国際社会、あるいは政治の世界においていかに実弾よりも恐ろしい力を発揮するのかが、痛感されます。もちろん賛否はいろいろとあるでしょうが、こうした現実があることを、まざまざと感じさせられる衝撃的な一冊でした。


 実は、私と妻が「新婚旅行」で選んだ場所が、「ボスニア・ヘルツェゴビナ」であり、「クロアチア」だったんです。銃痕や、砲弾に破壊された橋や建物がのこり、戦禍の傷跡が残る首都「サラエボ」や、国境の街「モスタル」の光景は、いまでもはっきりと脳裏に焼き付いています。


 米国出張からの帰り、飛行機の中で読んだんですが、物語を読むように、一気に読んでしまいました。おかげで、あまり寝られませんでした。

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