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t【対談】澤芳樹 × いさ進一 再生医療で大阪を「医療の先進地域」に!

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2016年10月4日



「大阪を、医療の先進地域にしたい」―― いさ進一は、初の衆議院議員選挙に臨んだ当初から、ビジョンの一つに医療の視点を掲げ、実現に向けた取り組みを進めてまいりました。なかでも再生医療の研究は、未来の医療技術を革新させる上で不可欠な分野であり、世界が注目しています。今回は、iPS細胞による心臓の再生医療を目指す大阪大学の澤教授と意見を交わし合いました。


「心臓の病気」の治療に生涯をかける


いさ 澤教授の存在は、心臓病に悩む患者さんにとって「希望の光」といえます。そもそも医師になられたきっかけは。


 幼い頃は小児ぜんそくを患っていたので、外で遊ぶというよりは、家で図鑑をにらめっこするような毎日を過ごしました。中学へ進むと機械に興味を持ち、開発エンジニアになりたいなんて思ったこともありますね。転機となったのは高校2年の時。従兄弟(いとこ)が交通事故で急逝し、「なんとしても人の命を救いたい」と医師になる道を選びました。


いさ 私はもっと幼い頃ですが、「医師になりたい」と思ったことがありました。4歳でペルテス病という股関節の病気になり、長期入院しました。当初はなかなか病名がわからなかったこともあり、苦しんでいた私や家族を医師が救ってくれたからです。結果的には議員になった訳ですが、こうして医療分野の発展を政治の世界から後押しすることができて、うれしく思います。


何千万もの患者が待望する心臓の再生医療


いさ 心臓の病気を治療する日本の医療は、日々急速な進歩を遂げています。一方で、難病ゆえに完治することができず、苦しんでおられる患者さんも多数いらっしゃいます。患者さんやご家族の心痛を思うとき、やはりさらなる医療の向上と研究開発が望まれます。


 おっしゃる通りです。一般的には、心臓手術により完治する可能性は非常に高くなってきましたが、同時に手術による治療の限界も感じます。心臓病はほとんどの場合、「心不全」で亡くなられます。では「心不全」にどのように対応するかというと、根本的には「心臓移植」もしくは「人工心臓」を取り付けるしかありません。
 ところが、現状ではこの治療は極めて制限されます。日本では数千人の患者さんが必要と言われる中で、心臓移植は数十人、人工心臓も数百人ほどしか、実施されていません。残念ながら現段階では、「心臓移植」も「人工心臓」も、広く多数の方に提供する医療としては、その役割が果たせていない状況です。だとすれば、新しい切り口から発想する新しい医療を確立しなければならない。
 そこで痛感したのが、外科医が手術によって心臓を回復させる条件を整えたのちに、患者さん自身の心臓の体力で心臓機能を回復することを直接的に後押しする治療の必要性だったのです。


いさ それがまさしく「再生医療」なんですね。では、もう少し詳しくお聞きしますが、「投薬」や「心臓移植」「人工心臓」に、新たに「再生医療」が加わることによって、今までと何が変わってくるのでしょうか?


 人工心臓は機械ですから、突然の不具合の心配が生じます。そして、合併症の危険性もあります。一方で心臓移植は、ドナー(臓器提供者)が現れなければ手術できません。このような状況ですから、日々の生活での患者さんの精神的な負担も相当重たいものがあります。
 だから、そうなる手前の段階で「再生医療」を行い、本人の心臓を生かしきって機能を回復させる。もしくは状況を維持させて、そこから病状が進行しないようにする。これができれば、世界で何千万人という規模の方々をお助けすることができると私は考えています。


いさ 世界中の患者さんが「再生医療」を待たれているのですね。


 日本は死因の第1位はガンですけれども、例えば、アメリカでは死因の60%が心臓病(心筋梗塞)なんですね。もしも心筋梗塞を発症して外科手術によって一命を取り留めることができた。しかし心筋梗塞が治っても、心臓が悪いので次第に心筋が弱っていってしまう。そこで、そうなる前に「再生医療」を行い、心臓の弱体化に歯止めをかけることができたら、「心臓移植」や「人工心臓」に頼らなくても、たくさんの方をお助けることができます。


いさ それでは、「再生医療」の現状と今後について、もう少し詳しくお聞きします。
 現在、澤先生が実用されているのは、太ももの筋肉から細胞シートをつくり心臓に移植する方法ですね。そしてこれが、将来的にはiPS細胞による治療に進化していくということでしょうか?


 そうです。もともと心臓の筋肉細胞も太ももの筋肉細胞も、「サイトカイン」という筋肉を元気にする物質因子を出すんですね。同じ筋肉同士ですから。例えて言えば、同じ家系だから従兄弟(いとこ)同士も好きな食べ物が同じといったようなものです。
 そこで仮に心臓病が原因で心筋にサイトカインが十分に補充されなくなり心筋が弱ってきた場合に、自分の太ももの筋肉からサイトカインがたくさん含まれた細胞シートを作り、心筋に張り付けてあげる。すると、弱っていた心筋が元気を取り戻し、心臓の機能回復に繋がるわけです。ただし、これはあくまでも、太ももの筋肉細胞が直接心臓の筋肉細胞になるわけではありません。
 例えば、戦場で戦っている兵士が弱ってきた。でもそこに物資が届いたら、補給をして元気になるじゃないですか。それが太ももの筋肉細胞が出す「サイトカイン」を利用した治療なんですね。
 ところが、戦いの形勢が不利になって、味方の兵士がどんどんやられてしまう。元気な兵士はほとんど残っていない。こんな戦局では物資だけ届いても効果はありませんね。物資は野ざらしになって、戦いは負けてしまう。これを打開しようと思うなら、もはや兵士の増員しかありません。


いさ
 なるほど。その新たな兵士を作り出すものが「iPS細胞」なんですね。


 その通りです。さらにいえば、iPS細胞は太ももの筋肉も心臓の筋肉も作ることができます。
 例えば、iPS細胞から心筋細胞を作る。しかしその心筋細胞も当初は未熟なので、ある程度サイトカインを必要とします。そのサイトカインの補充もiPS細胞から作った筋肉で行うわけですね。
 このような細胞補充療法とサイトカイン補充療法の両方をできるのがiPSの特徴だとしたら、より弱った心臓も助ける事ができるかもしれないし、太ももの筋肉で治すよりもより効果の高い回復力が得られるかもしれないということは、大体お分かりになりますよね。


いさ 素晴らしい治療法です。希望がわきます!
 では先生、世界で待たれている患者さんのためにもあえてお聞きします。iPS 細胞による治療が、患者さんに実用化されるのは大体いつ頃になるのでしょうか?


 一刻も早い実用化を願い、毎日真剣に努力してします。
 京都大学の山中伸弥先生が2012年にiPS 細胞でノーベル賞を受賞され、そこから一気に研究の拠点形成が始まりました。慶応大学が脊髄損傷、京都大学がパーキンソン病、神戸の理化学研究所が網膜再生。そして、我々大阪大学は心機能再生の研究拠点として、国家的に力を入れてもらいました。
 今年(2016年)でいよいよ5年目に入り、本格的に人体に応用する段階まで進みました。研究はおおむね順調に進んでいますので、これから国の承認なども含めた様々な事務作業を経たうえで、2017年後半から2018年頃にかけて、臨床研究をスタートしたいと考えてます。


いさ さらに突っ込んでお聞きしますが・・・(笑)。先生の目標観として、臨床研究後の実用化はいつ頃になりますか?


 今の法律でいきますと、臨床研究で患者さんに10例ぐらい実施した後に、条件期限付き早期承認というのが2、3年後に行われるんですね。そこから市販化されますので、5年以内が目標です。5年以内に保険診療化をしたいですね。


医療の発展 ―政治の果たす役割とは― 


いさ 今、澤先生が述べられた「大きな志」は、読者の皆さんのみならず、世界中の患者さんにとって希望の光になることは間違いありません。夢の治療法の実現は、もう間近に迫っていることを確信されると思います。
 私は政治に携わる者として、その責任を噛みしめる思いで言わせて頂きますが、政治や行政の医療に対する使命は大きく2点あると思います。
 1点目は、先生方に少しでも充実した研究をして頂くこと。2点目は、先生方の不断の努力でもたらされた医療革新の成果を最短で患者さんにお届けすること。国はこの2点について、予算と法律の措置を中心に出来得る限りの環境整備に取り組まなければなりません。
 実際に待ち望んでいる患者さんの立場からして、例えば国の審査が遅かったりすると、せっかくの医療革新の成果が届きません。だから澤先生が先ほど言われた承認過程も、公明党は「早期実用化」を重視し、再生医療3法をリードしました。研究現場の最先端の治療が、病気に苦しむ患者さんのもとに、一日も早く届くように後押しすることが、政治が果たす役割だと考えます。


 大変大事ですね。もとより医療は、安全性を確保しながら有効性を検証していかなければなりません。しかし、「有効性が全部分かってから5年後に承認するのか」または「有効性を確かめながら市販していくのか」という点は、多面的に検討する必要があります。何よりも、限られた時間しか残されていない患者さんは、待つことができません。
 我々再生医療従事者にとって今回の法律は、その点を考慮して頂けたことが、すごくありがたいと思っています。安全性が確保された承認途上にある治療について、医者が説明を尽くしそれでも治療を希望される患者さんに対しては、投与しながら検証していく必要性を感じます。この点、私たちがこの法律に沿って正しい医療をどんどん展開し、この法律が正しかったということを証明していくのも、大事なミッションであると考えています。


いさ この重要課題は、政治と医療が一体になって努力することで必ず突破していけるものと思いますし、私もこれまで以上に汗をかいていきます。


「歴史ある医療の街・大阪」をさらに元気に!_


 大阪城を築いた秀吉は、当時の堺に点在していた薬問屋を集めて「道修町」をつくり、薬や医療の研究が進歩していきました。創薬ができるというのは、国で見ても世界で数カ国しかありませんが、日本でそれができるのは「道修町」のおかげです。また、大阪大学の淵源である適塾は、近代医学の祖である緒方洪庵が開きました。天然痘の研究拠点も設立するなど、大阪は医療分野においても大変歴史がある街といえます。


いさ 大阪は昔から、縦割りや官僚支配ではなく、皆が活発に連携、協力し合う「オープンイノベーション」の町でした。すでに澤教授をはじめ大阪大学では、多数の企業と連携した取り組みをスタートされているとも伺いました。
 私も政治の世界から、医療そして大阪の活性化につながる様々な施策を推進し、具体的な形でリードしてまいりたいと思います。本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。


■対談者 澤 芳樹 氏(大阪大学 医学部長)
1955年生まれ。1980年、大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部第一外科入局。
2006年、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管・呼吸器外科教授および大阪大学医学部附属病院未来医療センターのセンター長に就任。現在、大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科 主任教授 科長、大阪大学臨床医工学融合研究教育(MEI)センター センター長。


■解説
 iPS細胞
ヒトの皮膚などの体細胞に、因子を加えて培養した細胞を「iPS細胞」(人工多能性幹細胞)といいます。2012年には山中伸弥教授がノーベル賞に輝いたことで、多くの方に知られるようになりました。iPS細胞は、身体のいろいろな組織や臓器に使うことができるため、病気やケガなどによって失われた機能を回復させる「再生医療」への活用が期待されています。

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