t特措法改正にみる「自粛と補償はセット」について
2021年1月8日
特措法改正にみる「自粛と補償はセット」について
憲法29条3項には、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」とあります。
つまり、飲食店の営業禁止などの私権(財産権)の制限には、その損失に対して「正当な補償」が必要です。これが、憲法の考え方です。
ところが、現在の政府の「自粛要請」には、その損失に対して「補償」がありません。それは、「自粛要請」や「協力依頼」といった弱い「お願い」だけでは、憲法上の私権の制限までには至らないという考え方です。また、期間も一時的であること、そもそも「罰則」などを有する強制的な措置でないこともその理由です。憲法上の私権の制限にまでは至らないので、「自粛要請」に応じてくれた飲食店に対しては、その損失への「補償」ではなく、あくまで「協力金」という形でお金が支払われています。
現在、特措法改正の議論では、自粛の実効性をあげるための「罰則」が検討されています。しかし、こうした考え方からすれば、強制力が強くなればなるほど、また休業すべき期間が長くなればなるほど、単なる「お願い」ではなく憲法29条の「私権の制限」に近づいてきます。よって、厳しい「罰則」を導入すればするほど、当然、それなりの「補償」が必要となってきます。
しかし、ここで議論があります。まず、「罰則」があれば、本当に実効性が高まるのかということです。現在、「罰則」の無い中であっても、たとえば12月に時短要請を行った大阪では歓楽街の人出が減り、感染者が抑えられていました。一方で、同じ時期に時短要請を出した東京は、なぜか人出は減りませんでした。ここの理由もはっきりしていません。
またそもそも、刑事罰をきちんと執行できる体制なのか、という点もあります。刑事罰であれば、法執行機関は厳密に網羅的に対応をしていく必要があります。しかし、自粛要請に応じない日本全国すべての飲食店に対し、刑事罰を執行できるような体制にはありません。
さらには、私権の制限に対して「正当な補償」を行うことを検討しなければなりませんが、一つ一つの飲食店や、納入業者、関係する事業者に対して、その損失額を確定していくことは、現実的に不可能でしょう。
以上から、いきなり厳しい刑事罰を、法改正で導入するべきではありません。それは憲法上の「私権の制限」ともとらえられ、損失に対しての補償も前提となると思われます。また、その実効性や執行体制にも疑問があります。
こうしたことを考えれば、罰則を科したとしても、人権とのバランスに配慮した、軽い行政罰にとどめるべきです。そして、今までよりも強制力を増した分だけ、あらためて協力金をしっかりと措置すべきだと考えます。
政治が、罰則ばかりを強調するべきではありません。必要な支援とセットになった法改正となるよう、議論を進めて参ります。
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