e3Dプリンター 日本は創造力に磨きを
- 2013.08.08
- 情勢/テクノロジー
公明新聞:2013年8月8日(木)付
人材育成してこそ競争に生き残れる
3Dプリンター(3次元印刷機)と呼ぶ装置から、航空機や自動車の試作部品が次々と生み出されていく。
出来上がりは、紙の印刷物ではなく実物だ。パソコンでデータを入力する技能があれば、あらゆる物が作製可能なため、製品開発の時間や費用を大幅に削減できる。
日本のものづくり技術を脅かすとの声もあるが、果たしてそうか。国内製造業の強みは、技術力だけではない。伝統的な工芸品から最先端の産業用ロボットに至る全てを、今でも多くの熟練工が支え続けている。技術や機械が高度化しても、それを使いこなすには技術者の経験と直感が頼りである。
ホンダ創業者の故本田宗一郎氏は、ものづくりの要点を技術ではなく、何が消費者に好かれるかを研究する創造力に求めたという。
多数の部品から成る工業品は、幾つもの過程を経て完成する。一方、3Dプリンターは特殊な原材料から、れんがを一気に積み上げるようにして製品を生み出す。個人の体に合わせた人工の骨や臓器の製作など医療分野での本格的活用も始まった。
夢の技術として将来性への期待は高いが、解決すべき課題も少なくない。米国内の非営利団体が、3Dプリンターを使い殺傷能力のある銃の製造に成功した。銃の設計データはネットを通じて公開済みで、密造銃による犯罪が懸念される。
日本文化を積極的に海外へ発信する政策「クールジャパン」の推進にも影響を与えるだろう。3Dプリンターと設計データがあれば、人気の高いキャラクターグッズの模造も容易になる。普及が見込まれる技術の負の面を、各国が連携して解消する方法を今から検討すべきではないか。
オバマ米大統領は一般教書演説で、3D印刷技術で国内製造業を活性化し、世界最高の製造業へと変貌させる構想を発表した。「最高の製品を望むなら、最高のアイデアに投資を」とオバマ大統領が強調した点は聞き逃せない。米国が、このように新技術に力を入れるのは、新興国の台頭で、米国の産業競争力が急速に衰えているとの厳しい認識があるからだろう。
この現実は日本も例外ではない。国を取り巻く経済環境の変化に対して、何が国益かを見定めて冷静に対応することが重要だ。幸い日本には世界がまねのできない、創造力に裏打ちされた技術がある。技術力で生き残るために、若い世代を中心とした人材育成策の拡充を期待したい。