eいじめ防止どう進めるか

  • 2013.11.07
  • 情勢/解説

公明新聞:2013年11月7日(木)付



自殺、うつ病など「重大事態」で事実調査
国の基本方針で具体化
10月策定



文部科学省は9月に施行された「いじめ防止対策推進法」(いじめ防止法)に基づく国の基本方針を先月、策定した。いじめ撲滅へ地方自治体、教育委員会、学校も動き出している。それぞれに求められている役割は何か。いじめ防止法と基本方針のポイントを解説するとともに、法制化のきっかけとなった大津市いじめ自殺事件※の遺族の父親(48)に心境を聞いた。

弁護士や精神科医など 第三者の参加求める

いじめ防止法の特徴は、いじめにより自殺、うつ病、不登校などの「重大事態」が発生した場合、(1)学校に文部科学省や地方自治体への報告(2)学校または教育委員会に事実関係を調査する第三者組織の設置―を義務付けたことだ。

国の基本方針では、子どもや保護者から訴えがあれば、「その時点で学校が『いじめの結果ではない』あるいは『重大事態とはいえない』と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査などに当たる」としている。

事実関係をめぐって被害者と学校、教育委員会が対立関係に陥りがちだ。そうした中で調査の公平性と中立性を確保するため、基本方針は調査組織の構成員に弁護士や精神科医などの専門知識を持った第三者の参加を明示した。

また、学校や教育委員会は被害者側に調査結果に関する情報を適切に提供する責任があるとし、「いたずらに個人情報保護を楯に説明を怠るようなことがあってはならない」としている。さらに、教育委員会が調査する場合、日ごろからいじめ対応に当たる付属機関を常設しておき、そこで実施するのが「望ましい」と提案している。

「日常的に起こっている」との前提で対策を講じる

子どもたちの世界で、いじめが日常的に起こっていることを基本方針はあらためて指摘していると言えよう。いじめは、大人の目に付きにくい時間帯や場所で行われたり、遊びやふざけ合いを装って行われることが多いとされる。

国立教育政策研究所による追跡調査によると、小学4年から中学3年までの6年間で、仲間外れ・無視・陰口という"暴力を伴わないいじめ"を受けた経験のない子ども、いじめをした経験のない子どもが、それぞれわずか1割程度しかいなかった。

つまり、ほとんどの子どもたちが何らかの形でいじめと関わりがあり、基本方針は、「全ての児童生徒を対象としたいじめの未然防止の観点が重要」と強調している。

いじめ防止法は学校に対し、(1)「学校いじめ防止基本方針」の策定(2)それに基づく、いじめ対策の具体的な年間計画の作成・実行・検証・修正を担う中核組織の常設―を義務付けた。

一方、地方自治体には条例などの形で「地方いじめ防止基本方針」を策定することを努力義務とした。文科省児童生徒課によると、現在のところ、策定自治体は滋賀県大津市など数カ所にとどまるという。

大津市では、いじめ防止条例の制定に向けた政策検討会議の設置を市議会公明党がリードし、今年4月には同条例を施行。併せて民間出身の教育長の就任、いじめ対策推進室の新設など、種々の改革に着手している。同条例で啓発月間に定められた10月には「子どもフォーラム」が開かれ、小中学生がいじめ防止を訴える寸劇や自主制作ビデオの上映、パネルディスカッション(公開討論会)を行った。

いじめ対策について公明党は、いじめ防止法の成立を積極的に推進する一方、スクールカウンセラーの配置などに取り組んできた。2014年度予算概算要求にもスクールカウンセラーの配置拡充が盛り込まれ、公立中学校1000校で週5日の相談体制が導入されることとなっている。

息子が命懸けで作った法律を正しく生かして

大津事件 遺族の父親

国の基本方針を検討する文科省の有識者会議で遺族代表として要望したのは、「重大ないじめがあった場合の調査は中立・公平であってほしい」ということだ。そのために利害関係のない第三者がきちんと参加する仕組みをつくってほしいと訴え、調査に際しては、遺族の気持ちに十分配慮しながら行うよう求めてきた。こうした主張が国の基本方針に盛り込まれたことを率直に評価したい。

大津の教訓の一つは、中立・公平な調査の実施だ。しかし、いじめ防止法はその点が不明確だったため、法律の解釈をめぐって遺族と学校、教育委員会が対立するケースがあった。奈良県橿原市で今年3月、女子中学生が自殺した問題では、遺族側が市教育委員会の設置する調査委員会委員の半数は自分たちの推薦した人にしてほしいなどと要望した。しかし市側は、「いじめ防止法に規定されていない」と遺族の意向を無視した一方的な人選を行った。その後、委員の一人が市の元顧問弁護士と判明し、辞任に追い込まれている。

残念ながら今も、いじめ問題を人ごとと考えている学校や自治体は多いが、橿原市の事例を対岸の火事と見るべきでない。いじめ防止法は今、生きている子どもたちを助けるために亡き息子が命懸けで作ってくれた法律だと思っている。その法律の理念が正しく生かされるような基本方針の策定を学校や地方自治体に望みたい。



※大津市いじめ自殺事件

2011年10月、滋賀県大津市の中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件。

学校や市教育委員会は当初、自殺といじめの因果関係を不明としていた。しかし、自殺直後に学校が行ったアンケートで複数の生徒が「(亡くなった生徒が)自殺の練習をさせられていた」などと回答していたことが翌年7月に明らかとなった。ずさんな対応や学校の隠蔽体質に批判が高まり、県警による強制捜査という異例の展開を見せた。

一方、市長の下に設置された第三者調査委員会は13年1月、再発防止策の提言を盛り込んだ230ページ超の調査報告書をまとめた。

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