eシリアの化学兵器
- 2013.12.16
- 情勢/解説
公明新聞:2013年12月16日(月)付
廃棄の成否和平に影響
困難乗り越え内戦終結に道筋を
2013年のノーベル平和賞授賞式がノルウェーの首都オスロで先週行われた。今回は、化学兵器の全面禁止や不拡散をめざす化学兵器禁止機関(OPCW)が選ばれ、アフメト・ウズムジュ事務局長ら関係者が、記念のメダルを受け取った。内戦が続くシリアで懸命に化学兵器の廃棄に取り組むOPCWに、心から敬意を表したい。
シリア政府が保有しているのは、少量でも極めて高い殺傷能力を持つサリンだ。化学兵器は、核兵器などに比べて開発しやすいため「貧者の核兵器」と呼ばれ、深刻な惨状を招くため、国際的に「戦闘で使わない」という規範が浸透している。サリンの使用は人道に対する極めて危険な挑戦であり、化学兵器は断じて廃棄されなければならない、と改めて強調しておきたい。
OPCWによると、シリア政府は、化学物質を注入していない砲弾やロケット弾の破壊を、予定よりも2カ月近く前倒しして完了。毒ガス製造に重要な役割を担う設備の無能力化も終え、作業は進展を見せている。
今後は、約1300トンの化学兵器関連物質の廃棄処理が進められる方針だが、課題も少なくない。ウズムジュ事務局長は10日、廃棄作業は来月末までに開始できるとの見通しを明らかにしたが、同時にシリアの治安悪化に懸念を示し、今後の作業が予定通りに進むかは全く予断を許さない。
また、米軍の輸送船内で実施予定の廃棄作業について、波の荒い公海上で行うことは困難を伴うとも伝えられており、不安が残る。
幸い、米軍による軍事介入の可能性まであったシリア問題の平和的解決へ、国際社会は今、確かな結束と協力を示している。デンマークやノルウェーは、化学兵器を積み出すタンカーを護衛付きで準備し、ドイツなどは査察官の輸送を行う方針だ。
近年、さまざまな分野で対立が指摘されてきた米ロも、この問題での共同歩調を崩さず、資金提供を申し出ている国も多い。日本は、人材派遣や10億円の拠出、シリア難民への追加人道支援という形で貢献する準備を進めている。
関係者の思惑が複雑に入り組むシリア内戦の終結に道筋をつけるため、来月には和平会議「ジュネーブ2」が開催される見通しだ。化学兵器廃棄の成否は会議での議論に大きな影響を及ぼす。問題の解決に多大な困難が伴うことは承知しているが、国際社会は協力を強め、一日も早く廃棄の作業を終えてもらいたい。