e阪神・淡路大震災20年目へ――"教訓"を後世に<1>
- 2014.01.17
- 情勢/国際
公明新聞:2014年1月17日(金)付
「助け合う心と技術」世界へ
海外から研修 40カ国110人に
インドネシアにも誕生
住民主体の組織で防災訓練重ねる
6434人の尊い命を奪った阪神・淡路大震災。深い悲しみを乗り越え、街の復興は大きく進んできたが、今なお癒えない心の傷など課題も残る。国内外を問わず大規模災害への備えが迫られる中、大震災の教訓をいかに生かし、後世に伝えるのか。1月17日を境に発災から20年目に入った"被災地"の今を追った。
1995年1月17日早朝に襲った阪神・淡路大震災で、最も多い1471人の犠牲者を出した神戸市東灘区。「1.17」を前に、同区魚崎中町にある市立魚崎小学校で、恒例の防災訓練が行われていた。主催したのは、22の地元自治会などから成る「防災福祉コミュニティ(防コミ)」。今年で10回目となるこの訓練に、小学生に交じって外国人の姿があった。
参加したのは東南アジアや南米、欧州などから訪れた計10カ国の政府関係者ら18人。近年、自然災害が世界各地で頻発していることを受け、先進的な防災技術を伝えようと、独立行政法人国際協力機構・関西国際センター(JICA関西)などが呼び掛けた研修に参加したメンバーだ。この日の訓練では、小学5年生(251人)らと2本の竹に毛布を巻いた担架や、車いすによる救助活動、消化器、ホースを用いた消火活動、けがの応急処置の方法などを学んだ。
訓練に参加したマケドニア政府関係者のティモフシュカ・マジャさんは「熱心に学ぶ子どもたちの姿が印象的だった。自国の主要政策に子どもの災害学習はないが、今後、参考にしたい」と感激した表情で語った。また、マレーシアで大学の講師を務めるジャイナムブ・モハマド・スルタンさんは「住民主体の防災学習を大学の授業に盛り込みたい。政府にも、この訓練の様子を紹介したい」と意気込んでいた。
実は今回、海外から研修者を受け入れた際、講師として奮闘した神戸市消防局の大津暢人さん(34)には、忘れられない苦い経験があった。阪神・淡路大震災の発生直後、当時、高校1年生だった大津さんの近所(同市灘区)の木造住宅が全壊。知人の男性が生き埋めになった。倒壊した家屋の奥から聞こえる声。助けようとしたが、男性の家族から「消防がきっと来るはず。待つべきや」と。だが、助けが来る前に男性は息絶えた。
「何もすることができなかった」。大津さんは、ぶつけることができない悔しさを胸に大学院に進んだ後、神戸市消防局に入った。2年前からは「防コミ」担当者となり、JICA研修の講師も務めてきたという。
今回の研修を含め、これまでの受講者は40カ国、延べ110人を超えた。各国の防災への関心は高く、2007年度から始めた年1回の研修が昨年度から2回に。また現在、神戸市内全域(191地区)にある「防コミ」だが、10年12月には、海外で初めてインドネシアでも結成された。同国では06年5月、死者5700人を超えたジャワ島中部地震を踏まえ、住民による防災訓練などが今も継続実施されており、防コミの成果の一つと評価されている。
「行政の対応に限界があるのは各国同じ。"いざ"という時、助けを待つだけでなく、支援し合える心と技術を世界に伝えたい」と大津さん。大震災が残した教訓は今、国境を越え、人々の"命を守る力"となって広がっている。