e取り調べの可視化 「全過程の録画」実現を
- 2014.05.07
- 情勢/解説
公明新聞:2014年5月5日(月)付
冤罪阻止へ"密室"の改革が必要
冤罪(無実の罪)に苦しむ人間を1人も出さないことが刑事司法の理念である。無実の罪は密室での取り調べでつくられてきた。そこで強要された自白が裁判の証拠とされることは正義に反する。
法務省が先週、検察と警察の取り調べについて、その全過程を録音・録画する可視化の導入を試案として法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」に提示した。
全過程の可視化に一貫して消極的だった警察の主張を退けたことは評価できる。
可視化の範囲を捜査員の裁量に任せるようでは、「恣意的な編集による録画・録音」との疑念がつきまとう。裁判の証拠として使うことを前提とする以上、全過程の可視化は避けられない。実現に向け、しっかりと議論を詰めてほしい。
どの事件を可視化の対象とするかも重要な論点である。
試案は、裁判員裁判の対象事件である殺人や放火など社会的に重大な事件に限定して検察と警察の取り調べを可視化するA案と、検察の取り調べについては、裁判員裁判の対象事件だけにしないで、それ以外のすべての身柄拘束(逮捕・勾留)事件も含めるB案の両案を併記した。
A案は対象事件を限定しすぎているため、可視化が例外扱いになるとの批判がある。B案についても、身柄拘束事件であれば検察だけでなく警察の取り調べも可視化すべきとの意見もある。
確かに大事な指摘である。裁判員裁判の対象事件は年間約2000件、身柄拘束事件は年間約12万件に上る。こうした実態を踏まえた上で、法制審は現実的な対応策を探る必要がある。
2009年からスタートした裁判員裁判は、この5年間で刑事司法の姿を大きく変えてきた。裁判官、検察官、弁護士の努力によって、法律専門用語が飛び交う法廷が、法律の素人である裁判員を中心に判決を導く場所になった。健全な一般市民の生活感覚が刑事司法に反映されている。
取り調べの可視化も刑事司法の変革につながる。
自白偏重などと呼ばれた取り調べを変えるには捜査員の大変な努力が必要になる。しかし、試案には容疑者の刑を減免して捜査に協力させる司法取引などの新しい捜査手法の導入も示された。
捜査当局が新しい捜査手法に頼り、取り調べ手法の改革という本筋の努力をしない限り、可視化が実現しても"捜査の武器"を増やしただけの"焼け太り"との批判を浴びかねない。