e集団的自衛権論議の方向性
- 2014.05.19
- 政治/国会
公明新聞:2014年5月17日(土)付
北側 一雄 党副代表に聞く
従来の政府の憲法解釈の枠内で可能な対応を探る
グレーゾーン、 限定行使論などが論議の対象に
与党協議
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書提出を受け、安倍晋三首相は15日の会見で政府の今後の検討に関する方向性を示し、自民、公明の与党両党に協議入りを求めた。公明党の北側一雄副代表(衆院議員)に聞いた。
―首相が示した方向性をどう見ているか。
北側一雄副代表 安倍首相は大きく三つの柱を示されたと思う。
一つ目は、「これまでの政府の憲法解釈の下で可能な立法措置を検討する」と言われたことだ。
漁民を装った武装集団が離島に上陸した場合などを例に挙げ、「武力攻撃に至らない侵害」(グレーゾーン事態)への対処などを議論し結論が出れば立法措置をしようということである。ただし、これは集団的自衛権に関わる話ではない。
二つ目は、安保法制懇の報告書に示された「個別的か集団的かを問わず、自衛のための武力の行使は禁じられていない」とか、「国連の集団安全保障措置への参加といった国際法上合法な活動には、憲法上の制約はない」といった内容の提言については、「政府として採用できない」と明言されたことだ。
首相は「これまでの政府の憲法解釈とは論理的に整合しない。憲法がこうした活動すべてを許しているとは考えない」と言明した。さらに「自衛隊が武力行使を目的として湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してない」とはっきり言われた。われわれからすれば当然だが、政府の立場を明確にしたという意味で評価していい。
三つ目は、「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」とする報告書の提言を、「政府として今後、さらに研究を進めたい」と述べられた。
―首相は与党協議を要請したが、何が協議されるか。
北側 まず、一つ目の柱の自衛権に関わらないところが対象になる。国連平和維持活動(PKO)の任務拡大やグレーゾーン事態などだ。そして、三つ目の柱の集団的自衛権の限定的な行使容認論も協議されると思う。
―グレーゾーン事態をどう考えるか。
北側 首相の示した偽装漁民の例や、自衛艦と哨戒機が海上警備行動によって不審船を追尾した1999年の能登半島沖不審船事案などは、警察権に関わる話だ。警察組織では十分に対処できない場合に自衛隊が補完的な役割をする。これは武力行使ではなく警察活動であり自衛権の話ではない。
―首相は会見で、PKOなどで自衛隊と離れて活動する非政府組織(NGO)や国連の文民要員を自衛隊が守れなくていいのかとも問い掛けたが......。
北側 PKOは武力行使を目的とした湾岸戦争の多国籍軍とは違う。停戦合意ができた後に紛争当事国の同意の下で行われる。
自衛隊がPKOで文民要員などを守ることについては、直ちに自衛権の問題にはならないと整理できると思う。
―集団的自衛権の限定容認論はどうか。
北側 限定的であれ、従来の政府解釈を見直してまで集団的自衛権の行使を認める安全保障上の必要があるのかどうか。まずは具体的、現実的な事例でしっかり議論すべきだ。その事例への対処の必要性が仮にもあれば、従来の政府解釈の中で何ができるかを議論するのが順序だろう。警察権や個別的自衛権で対処できることが相当あると考えている。
「集団的自衛権の限定容認」といっても、長年国会で積み重ねられてきた憲法9条の政府解釈を変更しようとするのだから、従来の政府解釈との論理的整合性が確保されないといけない。政権が代わる度にコロコロ憲法解釈が変わるようでは法的安定性も保たれない。
さらに、限定行使の基準を明確にする必要がある。個別的自衛権なら「わが国に対する急迫不正の侵害」が行使の絶対条件である。限定であれ集団的自衛権行使は「武力行使をしていい」ということだから、条件があいまいではとても歯止めにならない。報告書の「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある」では条件としてあまりに広すぎる。
こうしたことを考えると、限定容認論もなかなか容易なことではない。与党内でしっかり議論するが、これまで述べたことがクリアにならないといけないし、何よりも国民の理解を得ることが前提だ。