e安全保障法制と公明党の対応

  • 2014.07.07
  • 情勢/社会

公明新聞:2014年7月6日(日)付



自民、公明両党による与党協議会の結果に基づき政府は1日、「自衛の措置」の限界を定めた新たな安全保障法制整備に関する閣議決定を行いました。その内容や公明党の果たした役割、識者の声などを紹介します。



閣議決定で何が決まったのか

「自衛の措置」限界示す
外国防衛が目的の集団的自衛権は認めず

◎安全保障環境の変化に対応
◎武力行使は自国防衛に限定
◎自衛権発動の要件を厳格化
◎さらなる解釈拡大はできず

大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、各国間のパワーバランス(力関係)の変化など、日本を取り巻く安全保障環境は大きく変化し、より厳しさを増しています。国民の命と平和な暮らしを守ることは政府の責任であり、今回の決定では、こうした変化に対する「万全の備え」として、切れ目のない国内法整備に取り組む方針を示しました。

閣議決定の大きなポイントは、「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」に関し、自衛権に関する政府の憲法解釈のベースとなっている1972年見解の考え方を引き継いで、自衛権発動の「新3要件」を定め、武力行使に厳格な歯止めをかけた点にあります。

この72年見解の根幹は、「自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認される」との部分です。

「新3要件」はこの論理をもとに、(1)わが国に対する武力攻撃が発生した場合、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、(3)必要最小限度の実力を行使する―と定めました。

また、今回の決定では、武力の行使は「我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容される」とし、あくまで自国防衛に限った措置であることも明確にしました。これはいわば、個別的自衛権に匹敵するような事態にのみ発動されるという憲法上の歯止めになっており、外国の防衛それ自体を目的とした集団的自衛権は認めていません。

さらに閣議決定には、「(72年見解の)基本的な論理は、憲法第9条の下では今後とも維持されなければならない」と明記されており、この基本的な論理を変える解釈の変更は認めていません。

つまり、今回の決定は、平和主義という憲法の柱を堅持し、憲法第9条の下で認められる自衛の措置の限界を示しています。



平和主義の原則守った公明党



憲法解釈の基本を継承
今後も「専守防衛」は不変

◎従来解釈との整合性を確保
◎「新3要件」の条件厳格に
◎「軍事大国にならず」と明記
◎外交で平和的に紛争を解決

公明党は、安全保障法制の整備に際し、政府が長年とってきた憲法解釈を基本として、憲法の平和主義の原則を守るよう一貫して求めてきました。

これに対して安倍晋三首相は5月15日の記者会見で、外国の防衛自体を目的とする集団的自衛権の行使を認めることは「これまでの政府の憲法解釈とは論理的に整合しない」と明言し、政府として、その考え方を採用しませんでした。この発言の背景には、外国防衛を目的とした集団的自衛権の行使に強く反対してきた公明党の存在がありました。

また、閣議決定に向けて議論を重ねた与党協議会で公明党は、従来の憲法解釈との論理的な整合性を確保すべきだと強く主張しました。そうでないと、政権交代のたびに憲法解釈が変更されかねないからです。

その結果、政府の憲法解釈のベースとなっている1972年の政府見解の基本的な論理を、今後も維持することが閣議決定の中に明記されました。

さらに公明党は、自衛権発動の「新3要件」自体についても、「他国」の部分に、「我が国と密接な関係にある」との文言を追加。また、発動の条件の一部を、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される「明白な危険がある場合」とし、当初案の「おそれ」よりも厳格にしました。

「新3要件」に基づく武力の行使について、「我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容される」との文言を盛り込んだのも公明党です。これにより、あくまで自国防衛に限った措置であることを明確にしました。

閣議決定文の冒頭では、日本が専守防衛に徹し、他国に脅威を与える軍事大国とはならず、非核三原則を守ってきた戦後の基本方針を確認した上で、平和国家としての歩みを「より確固たるものにしなければならない」との決意を示しました。さらには、力強い外交の推進による紛争の平和的解決も表明しています。これらも、公明党の主張が反映されたものです。

このように、与党協議の中で憲法解釈の基本を継承するよう一貫して訴え続けてきたのは公明党です。この結果、安倍晋三首相は閣議決定を踏まえた1日の記者会見においても、「現在の憲法解釈の基本的な考え方は、今回の閣議決定においても何ら変わらない」と断言しています。



「平和の党」の役割果たす "蟻の一穴"論は杞憂にすぎぬ



静岡県立大学グローバル地域センター 小川和久特任教授

集団的自衛権に関する公明党の取り組みは、日本の平和と繁栄にとって大いにプラスになったと評価したい。

当初、安倍晋三首相の姿勢には前のめりの印象があったが、閣議決定は安定した仕上がりとなった。公明党が「平和」という立脚点を外さず、憲法との規範性、政府解釈との論理的整合性などを厳格に問い続けてきた結果だ。

閣議決定を受けて、「拡大解釈が進むのでは」との「蟻の一穴」論が出ているが、杞憂にすぎない。拡大解釈に対する究極の歯止めは、公明党が閣議決定に盛り込ませた専守防衛を貫くことだ。

安倍首相は5月15日の会見で「自衛隊が武力行使を目的として湾岸戦争やイラク戦争のような戦闘に参加することは、これからも決してない」と言ったが、そもそも軍事力としての自衛隊の構造は、他国に本格的な攻撃を加える能力を欠いたものだ。

日米同盟による役割分担もあって、自衛隊の構造は憲法第9条を絵に描いたような専守防衛の姿をしている。

つまり、今後も日米同盟を基軸として専守防衛を貫くことによって、必要以上の軍事力を海外で展開することはあり得ないということだ。



公明が歯止め効かせた 安保環境の変化に即した選択



明治学院大学 川上和久教授

東西冷戦が終わり東アジア情勢が予断を許さない中、「急迫不正の事態」がいつ起きるか分からない。政治の責任として、安全保障環境の変化にどう対応していくかが求められている。

今後、政府は今の安全保障の枠組みの中で国と国民を守るため、現実に即して物事を考えていかないといけない。今回の閣議決定は、現実を見据えた解決への一歩を踏み出したと思う。

公明党は、現実的に平和を守るために何が必要で、安保環境の変化に応じてどこまでできるかという(自衛権の)基準を明確にすることで、自民党と合意して与党の責任を果たした。また、平和を築くため一定の結論を出して「平和の党」としての責任を果たした。

公明党は国際平和協力法(PKO協力法)など安保環境の現実に即して安保法制に関する考え方を見直してきた。(安保問題を理由に)公明党が連立を離脱したら、恐らく歯止めが効かなくなってどんどん行ってしまっただろう。

何も対応せず「平和の党です」と言っていたら、"平和ぼけの党"だ。(与党協議は)平和ぼけの道をとるのか、現実に即した政策をとるのかの選択だった。今後、しっかりと説明責任を果たしていけば国民の理解は得られると思う。



「解釈改憲」は当たらない個別的自衛権を補完、拡充



劇作家・評論家 山崎正和氏

自衛権の問題について、一部政治家やジャーナリズムは、個別的か集団的かという言葉遊びにふけっている感じがする。初めて集団的自衛権を行使できるようになったと言うが、全く違う。要するに、今回の閣議決定は憲法が許容している「専守防衛」のための個別的自衛権の範囲内だ。その上で、個別的自衛権の今まで欠けていた部分を補完、拡充するものであることから、公明党は、平和の党としての立場を全く譲っていないし、完全に貫いた。

「解釈改憲」はそもそもが存在しない。どんな法律も解釈があって初めて成り立つもので、法律の文言を人間の行動に移すためには解釈が必要だ。その解釈を行う公的機関の最高裁判所が1959年の砂川事件判決で、少なくとも個別的自衛権があると認めたのは、正当なる三権分立の下で憲法解釈を行ったものであり、政治的な解釈改憲はもともと存在しない。
Q「解釈改憲」なのでは?



憲法の平和主義を堅持。改憲に当たらず



「解釈改憲」とは、解釈によって、憲法の考え方の柱を変えてしまうことであり、憲法の平和主義を守った今回の決定は解釈改憲ではありません。

今回の閣議決定では、国民の命と平和な暮らしを守るため、自国防衛の場合に限って例外的に武力の行使を認めた憲法第9条の柱は、そのまま堅持されています。

閣議決定は第9条の枠内で、自国を守るための「自衛の措置」の限界について解釈の見直しをしたにすぎず、解釈改憲ではありません。

一方、「時の政府がさらなる解釈変更をして、行使できる自衛の措置の範囲を広げることができるのではないか」との懸念の声があります。

しかし、今回の閣議決定では、公明党のリードによって解釈変更の限界が示され、与党協議会の座長を務めた自民党の高村正彦副総裁も「さらに解釈を広げるには憲法改正しかない」と明言しています。
Q戦争する国になるのでは?



自衛隊の戦闘目的の海外派兵はできない



「専守防衛」は堅持され、海外派兵は認めません。「専守防衛」とは、日本の防衛に限ってのみ武力行使が許されるということであり、これは堅持します。今回の決定はあくまでも国民の生命と平和な暮らしを守るために必要な「自衛の措置」の限界を示したものです。外国防衛それ自体を目的とする集団的自衛権の行使は認めていません。

「専守防衛」を堅持する以上、自衛隊の装備を攻撃的なものに替えることもしません。閣議決定にも明記されているように「他国に脅威を与えるような軍事大国にはならない」とのわが国の防衛政策の基本は変わりません。自衛隊を戦闘目的で海外派兵させることができないため、外国防衛のために戦争をすることも、外国の戦争に巻き込まれることもありません。安倍晋三首相も1日の記者会見で「海外派兵は一般に許さないという、従来からの原則も全く変わりません」と明言しています。
Q「平和の党」の看板を下ろしたのか



武力行使に歯止め 与党協議をリード



公明党は「平和の党」だからこそ、国民の命と平和な暮らしを守るために責任を持って、与党協議をリードしました。

それは、閣議決定の文書の冒頭に、「専守防衛に徹し」「軍事大国にならず」「非核三原則を守る」と明記されていることからも明らかです。

与党協議の中で、憲法第9条の枠内で認められる「自衛の措置」の限界を定め、武力行使について厳格な歯止めをかけました。これによって憲法の平和主義を堅持しました。安倍首相も、1日の閣議決定後の記者会見で「現在の憲法解釈の基本的な考え方は、今回の閣議決定においても何ら変わらない」と述べました。

公明党は「平和の党」として、日本と国際社会の平和を守るために、全力で取り組んでいきます。

安全保障政策だけでなく、対話を軸とした「外交力」の強化も不可欠です。外交重視は、公明党の従来からの主張です。



マスコミの論調から



公明はよく頑張った(週刊朝日で田原氏)
安定守り戦争防ぐ決定(日経)
「解釈改憲」とは異なる(読売)

閣議決定の翌2日付各紙では「9条崩す解釈改憲」「戦後安保の大転換」との不安を煽る論調が見られる一方で、冷静な判断を示すマスコミもありました。

2日付「日経」は「日本、そしてアジアの安定を守り、戦争を防いでいくうえで、今回の決定は適切」と論評。同日付「読売」は「過去の解釈との論理的整合性を維持しており、合理的な範囲内の変更である。本来は憲法改正すべき内容なのに、解釈変更で対応する『解釈改憲』とは本質的に異なる」と強調しました。

公明党に対する評価の声もありました。

1日発売の「週刊朝日」7月11日号でジャーナリストの田原総一朗氏は「公明党はよく頑張ったと私は評価している。おかげで集団的自衛権をめぐる自民党案の曖昧さや矛盾がずいぶん露呈して、問題点がわかりやすくなった」との認識を表明。

2日付「東京」で作家、元外務省主任分析官の佐藤優氏は「公明党が連立与党に加わっていなかったら、即時、戦争ができる閣議決定になっていたと思う。今後、政府がいくつもの踏み越えをしないと、実際に集団的自衛権を行使することはできない」としました。

また、拡大解釈への懸念には、2日付「日経」で神保謙慶応義塾大学准教授が「集団的自衛権の発動条件は厳格に規定され、自衛隊の活動には二重、三重の制約が課された」と指摘。4日付「毎日」で西川恵客員編集委員は「なし崩しの拡大解釈につながる懸念はあまりない」と述べました。

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