e臨床研究の不正 患者軽視の姿勢許されず

  • 2014.07.09
  • 情勢/解説

公明新聞:2014年7月9日(水)付



実効性の高い防止策を自ら示せ



薬の効果や影響を検証する臨床研究上の不正が相次いでいる。

東京地検特捜部は、製薬大手ノバルティスファーマ社の高血圧症治療薬「ディオバン」をめぐる臨床研究で、2011年発表の医学論文の不正操作に加え、12年発表の論文も改ざんしたとして、元社員を薬事法違反(虚偽広告)容疑で再逮捕した。

京都府立医科大学の研究チームが集めた脳卒中の発生数のデータを改ざん、虚偽の数値を用いて作成した図表を同チームに提供し、ディオバンに有利な内容の論文を公表させた疑いだ。薬の安全性を揺るがす重大な問題であり、不正行為に至った動機の解明が待たれる。

武田薬品工業が販売する高血圧症治療薬「ブロプレス」も、薬効を示した製品広告のグラフが、基になった臨床研究の論文と異なる点が判明。薬事法違反ではないが、倫理に反する行為として批判されている。市販後調査で重い副作用情報を認識していたにもかかわらず、国への報告を怠っていた点も見過ごせない。

いずれの場合も患者が偽の効果を信じて薬を使用し、国民が医療保険で不必要な支払いをさせられたと考えられる。高血圧症の改善に取り組む患者を、ばかにした行為だ。

高血圧症治療薬は、数千万人もの患者が毎日服用する。医療情報会社IMSジャパンによると、ディオバンの13年の売上高は943億円。ノバルティス社は、ディオバン開発で京都府立医大など5大学の臨床研究に関与し、総額で数十億円の寄付をしたと伝えられる。治療薬の開発競争で優位に立ちたい企業と、研究資金確保に必死の医学研究者の利害が一致し、不正が行われた可能性もある。

ノバルティス社は、白血病治療薬による重い副作用を把握しながら国に報告していなかったことも明らかになった。臨床研究の不正は過去にもあったが、相次ぐ問題を受けて罰則強化を求める声が出ている。

画期的な新薬は経済的リスクを顧みない思い切った民間投資と、自由に創造性を発揮できる研究環境があってこそ開発できるのも事実だ。治療薬開発の大部分は適正に行われているが、健康に悪影響のない不正であっても医療界の信頼は損なわれる。

製薬会社と医学研究者は患者軽視の姿勢に陥っていなかったか自問すべきだ。まずは医療界自らが問題に真摯な姿勢で向き合い、実効性の高い不正防止策を早急に示すべきである。

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