e「無戸籍者」の窮状を救え
- 2014.09.09
- 情勢/社会
公明新聞:2014年9月9日(火)付
法務省が実態調査を開始
仕事限られ、生活に支障
小中学校に入学できない場合も
法務省は、役所に出生届を出さないままに暮らす、いわゆる「無戸籍者」の実態調査に乗り出した。無戸籍者の中には住民票がないために、仕事や住む場所を限られるなど不自由な生活を強いられる人が多くいるとみられ、救済対策の実施が求められている。
出生届ないまま暮らす
法務省は7月末から、生活保護の申請などで自治体の相談窓口を訪れる無戸籍者の情報を各地の法務局に集約し、法務省に報告する体制を敷いている。
国が自治体と連携して調査に動き出したことで、実態の解明が進むと期待されている。
無戸籍者は一定の条件を満たせば自治体の裁量により住民登録ができるが、中には住民票のない人も多い。住民票がなければ、行政サービスを十分に受けられず、生活にさまざまな支障を来す。
身元を証明する公的な証明がないため、健康保険への加入や携帯電話の契約、銀行の口座開設もできない。国家試験などの受験も制限され、資格の取得も難しいため仕事も限られる。学齢期になっても公立学校への就学案内が届かず、小・中学校での学習機会を逃す人もいる。
今年6月には、戸籍がないまま41年間暮らしていた男性が大阪市内で記者会見し、マスコミの注目を集めた。男性は、住宅の賃貸契約ができないために不安定な生活を強いられ、結婚にも影響が出ているという。
民法の「300日規定」が壁
無戸籍者が生まれる背景には、家庭内暴力(DV)や離婚の増加など家族環境の変化と民法の規定が関係している。
民法772条は、離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子どもと推定すると規定している。このため、女性が離婚後300日以内に別の男性との間に子どもを産んだ場合、出生児が前夫の戸籍に入るのを避けるため出生届を提出せず、結果的に無戸籍になってしまう。
また、夫のDVから逃れるために別居した女性が、居場所を知られるのを恐れて婚姻関係を解消できないまま歳月がたち、夫以外の男性の子を産み、出生届を出さないケースもある。
無戸籍者が戸籍を取得するためには、実父から子どもと認めてもらう親子関係の認知調停・裁判などの方法がある【イラスト参照】。しかし、調停や裁判の場で前夫との接触を恐れたり、手続きに費用が掛かることから、断念する人も多い。
救済制度の徹底周知を
公明党法務部会顧問 大口善徳 衆院議員
公明党は、2007年2月に党内にプロジェクトチームを立ち上げ、無戸籍者の救済策の充実に尽力してきました。公明党の強い働きかけにより、総務省が08年7月に、無戸籍者の住民票を作成する際の統一判断基準を自治体に通知し、これにより全国一律に全ての市町村で住民票の記載が認められるようになったことや、最高裁が裁判所のホームページに「認知調停」の欄を新設したのは、その一例です。
ただ、こうした救済措置は十分に周知されておらず、最初から行政への働き掛けを諦めている人もいます。そこで法務省は今年7月末、全国の法務局へ通知を出し、無戸籍者の救済制度の周知徹底を指示しましたが、啓発活動などを一段と強化していかなければなりません。
法務省は、無戸籍者に関する情報提供を自治体に要請しています。寄せられた情報を基に、無戸籍になった原因や生活状況を分析し、今後の対策に生かすべきだと考えます。