e故郷を捨ててたまるか!

  • 2014.09.11
  • 情勢/社会
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公明新聞:2014年9月11日(木)付



「じじい部隊」の活動を追って



「次の世代へ守り残す」
原発のまち・ 福島県大熊町

きょう東日本大震災から3年6カ月。復興へ歩むスピードは各地で異なるが、被災地の風景は着実に変わりつつある。事故を起こした東京電力福島第1原発が立地し、「無人のまち」となった大熊町もそう。町が「復興拠点」と位置付ける大川原地区(居住制限区域)では、再生へ確かな胎動が感じられる。この地には、いつか帰れるその日を信じて、ただひたすらに突っ走る剛毅な男たちの姿がある。自称「じじい部隊」こと、町の元職員ら6人だ。「故郷を次の世代に残す」との使命感のままに、交代で現地に駐在し、町民の留守を守る"老雄"たちの活動を追った。(東日本大震災取材班 渡邉勝利、高田正好、写真・江田聖弘)
一日一歩でも前へ――。パトロールや清掃に汗


真っ黒に日焼けした男たちは防護服に身を固めると、さっそうと現場へ飛び出した。「さあ、一時帰宅した町民ががっかりしないようにすっぞ!」。草刈り機をうならせ、人の背丈ほどもある雑草を丁寧に刈り取っていく。そのたくましい背中に、強い志と決意がほとばしる。満開のヒマワリ畑に刻まれた「オオクマに かえろう」との誓いの文字のままに―。

そよ風に揺らめく黄色の大輪は、町民有志が植えたもの。じっと見つめていた女性が「やっぱり、大熊の空気は最高だぁ」とつぶやくと、隊員の鈴木久友さん(62)は「そうだ、この風がいいんだ」と言って、言葉を継いだ。

「誰かが草刈りをしねぇ限り、雑草はそこに一生ある。大熊の復興も同じだ。一日一歩でも進んでいけば、いつか必ず帰れるようになっから」

第1原発のお膝元である大熊町では、今も全住民約1万1000人が避難。人口の96%が暮らしていた中心エリアは、高線量の「帰還困難区域」となり、おびただしい数のバリケードに覆われている。

朽ちゆくばかりだった同区域では、国による本格除染の方針がようやく決定。一方で、除染廃棄物を最長30年間保管する「中間貯蔵施設」の受け入れを県が表明したことや、立ちはだかる原発の廃炉や汚染水問題に、町民の苦悩は尽きない。事実、子育て世代を中心に、移住を決断した避難者は少なくない。

そんな険しい状況を前にしても、じじい部隊の6人は「今できることを本気になってやる」と初心を貫く。現地に駐在して1年6カ月。最前線を駆け回り、四季折々の故郷の大地を見詰めてきたからこそ、伝えたいことがある。「大熊はまだ捨てたもんじゃないぞ」

6人は、町の元総務課長・鈴木さんの呼び掛けで集結した。いずれも震災時に町の要職を務めた経験を持つ。建設、消防、測量、ダム管理などのエキスパートで昔からの"戦友"だ。「退職後も町のために役立ちたい」と避難先のいわき市などから通う。

日々の業務は、防犯パトロールや一時帰宅の手伝い、防火用水路の管理、ごみの清掃など肉体労働が中心。道路をふさぐ倒木や、さび付いて開かない玄関の鍵に即応できるよう、車にはチェーンソーや潤滑剤など"七つ道具"を積む。

「体はやっとだけど、老骨にむち打ってやってるよ」と杉内憲成さん(63)は苦笑いするが、6人とも底抜けに明るく、活動が楽しそうだ。時にはつらく寂しい言葉を浴びせられることもある。だが、決して揺るがない。「あきらめるのは簡単だ。誰かが後に続いてくれるはずさ」

この夏、数千本のヒマワリが凛と咲き誇った大川原地区では、新しい町の形も見えてきた。除染は完了。常磐自動車道の開通工事や、原発作業員に食事を提供する給食センターの建設も急ピッチで進む。試験的な稲作も順調だ。町の元復興事業課長だった横山常光さん(61)は「ここから中心部に復興を広げていきたい」と意気込む。

「命が燃え尽きるまで」とばかりに、がむしゃらに故郷を飛び回る隊員たち。別れ際、「どうだった?」と"逆取材"され、「皆さん方の姿に大感動し、必ず復興できると確信しました」と答えると、「やっぱり俺らみたいなバカなやつがいねぇとな」と豪快な笑いが返ってきた。やる気だ、復興なるその日まで。
勇気の行動に心より感謝



渡辺利綱町長


震災から3年半になるが、仮設住宅などで避難生活を余儀なくされている町民には、長くて重い歳月だったと思う。帰りたい人が戻れる環境をつくるのが復興の原点だ。大熊で生まれ育った人は全国、世界にいる。われわれの代で土台をつくり、次世代に夢や希望を託したい。

その先頭に立って、帰還への地ならし役を担ってくれているのが「じじい部隊」の皆さんだ。理屈じゃなく、第一線で一生懸命やってくれている姿を見聞きして「勇気づけられた」という声も数多い。さながら町民の"応援部隊"にもなっている。感謝は尽きない。

中間貯蔵施設については、知事の判断を重く受け止めている。今後、政府には地権者への丁寧な説明を求めたい。一番大変な状況にある大熊が復興すれば、福島全体の復興にもつながる。自分たちが双葉郡を引っ張っていく覚悟だ。

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