e結党50年ビジョン 外交・安全保障
- 2014.09.18
- 情勢/国際
公明新聞:2014年9月18日(木)付
東アジアの安定、国際平和をめざして
Ⅰ はじめに
冷戦終結後の国際社会は、圧倒的な軍事力を背景にした米国の「一極体制」と言われた時期もありましたが、現在の世界は「Gゼロ(無極)」あるいは「多極化」とも指摘され、秩序が変容しつつあります。その一方で、グローバリゼーションにより、各国の相互依存関係はこれまでになく深まっています。こうした国際情勢の下では、どの国も一国のみで平和を守ることはできず、日本にとっても新たな国際環境に対応した外交・安全保障の戦略が求められています。
今年で結党50年を迎えた公明党はこの半世紀、先の戦争に対する痛切な反省に立った歴史観の下で、「平和の党」として日本の平和国家としての歩みを支え、世界の恒久平和の実現、核兵器のない世界をめざし闘い抜いてきました。日中国交回復をはじめアジア各国との平和・友好に大きな役割を果たしてきました。
公明党の結党50年ビジョン委員会は、結党以来の「平和の党」としての理念、取り組みを踏まえ、新たな安全保障環境の下で日本の存立を全うし国民の生命を守るとともに、東アジアの「和解」と国際社会の平和と安定をめざす新時代の外交・安全保障ビジョンを提示します。
Ⅱ 激変する安全保障環境
新興国台頭、変容する世界秩序 「人間の安全保障」に理解広がる
21世紀の安全保障には二つの大きな環境変化が生じています。
一つ目は、前世紀を通じて最大の関心事であった軍事力、経済力に基づく国家間のパワーバランスが変化したことです。二つ目は、国家の安全だけでなく、国家の枠を超えたさまざまな脅威からの人間個人の安全確保が紛争防止に必要であるとの新たな安全保障観を示した「人間の安全保障」への理解が広がったことです。
まず中国、インド等の新興国の台頭でパワーバランスが激変しています。中国が国際社会で存在感を増大させる一方、米国は引き続き主導的地位にあるとはいえ、軍事的にも経済的にも相対的影響力の変化は明らかであり、将来、どのような国際秩序が形成されるか予測できません。
また、パレスチナ問題を抱える中東や、北朝鮮の核に直面する東アジア、内戦の絶えないアフリカなどでは、パワーバランスの視点だけでは対応困難な安全保障上の問題を抱えています。
次に「人間の安全保障」への理解が広がった背景には、紛争の原因をつくる大規模テロや、麻薬取引など国際犯罪の深刻化があります。特にテロリストは、貧困にあえぐ途上国に潜み、そこで新たなテロリストを育て送り出しています。
こうしたテロの温床を絶つには、先進国が自国の安全だけに関心を向けるのではなく、途上国に対して人道支援や開発支援をし、そこで暮らす一人一人を貧困や人権抑圧から解放することが重要です。
「人間の安全保障」の理念は2000年の国連特別総会で共有され、貧困層半減などをめざす国連ミレニアム開発目標の取り組みとして結実しました。これは国際的な安全保障にとって画期的な変化といえます。
「人間の安全保障」の実現には、貧困以外にも感染症対策や地球環境の保護、紛争後の平和構築の推進など幅広い分野での国際協力が不可欠です。
その中心として国連に大きな期待が寄せられていることも、21世紀の安全保障環境の変化として認識する必要があります。
Ⅲ 総合的な安全保障体制の整備
1、憲法の平和主義を堅持
公明、合意形成の役割担う
日本は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家としての道を歩み、豊かな国民生活を築いてきました。また、国連憲章を順守しながら、国際社会や国連をはじめとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与してきました。こうした日本の歩みは国際社会から高い評価を勝ち得ています。
公明党は結党から半世紀、世界の恒久平和の実現という結党時の大目標を見据え、「平和の党」として日本の平和国家としての歩みを支え、平和政策を推し進めてきました。
その基本方針は、憲法の平和主義に基づき、「他国から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を使って自国を守る」という専守防衛に徹し、保持する防衛力も必要最小限度に限り、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないことです。また、公明党が実現に尽力した「核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず」の非核三原則という国是を、唯一の戦争被爆国として守り抜くことです。さらに、憲法前文にうたわれた国際協調主義の下、国連をはじめとする国際機関と連携し、国際社会の平和と安定に積極的に貢献することです。公明党は、こうした平和国家としての基本方針を今後も堅持します。
日本の安全保障をめぐる論議を振り返ると、冷戦期はイデオロギーに偏した不毛な神学論争を繰り返し、冷戦後も国際情勢の変化への対応、平和観をめぐり国論の分裂がみられました。こうした中で公明党は、平和憲法の理想や党の平和理念を堅持しつつ、国際情勢を直視した現実的、建設的な安全保障論議をリードし、安全保障政策に欠かせない国民的コンセンサス(合意)を形成する役割を果たしてきました。
例えば、公明党は1981年12月の党大会で、党のそれまでの安全保障・自衛隊政策を現実的に見直す安全保障政策を発表。日米安全保障条約の存続を容認するとともに、領土、領海、領空の領域保全に任務を限定した「合憲の自衛隊構想」を提起しました。これは、保守・革新、左右両派が不毛な対立を続ける中、平和憲法の下で一定の自衛力保持を容認する大多数の国民の声を代弁するものでした。
その後も公明党は、憲法上の自衛権の考え方などについて党内論議を重ね、安全保障政策を確立してきました。
また、冷戦終結後に勃発した湾岸戦争は、日本が国際社会の平和の回復と維持のために、いかなる役割を果たすのかを問う契機となりました。その教訓から公明党は、当時は野党の立場でしたが、国連平和維持活動(PKO)協力法の制定(92年)に主導的役割を果たしました。PKO協力法の制定は「一国平和主義」を乗り越え、世界平和に日本が貢献する、戦後日本の新しい生き方を切り開きました。
専守防衛に徹した「合憲の自衛隊像」や、PKOなど自衛隊の新たな任務に対して国民の大多数が理解を示している現状を見れば、時代の変化に対応した公明党の政策判断が正しかったことは明らかです。
一方、外交交渉は政府の専権事項とされますが、公明党は積極的な政党外交に取り組み、成果を挙げてきました。
中でも、戦後日本の政治外交上の画期的転換点とされる日中国交回復では、両国政府間の事実上の橋渡し役を担い、国交正常化、日中平和友好条約締結への道を切り開きました。その原点は、党創立者である池田大作創価学会会長(当時)の歴史的な「日中国交正常化提言」(1968年9月)にありました。
また、紛争が終わった後も市民を苦しめる地雷や不発弾処理の問題では、日本が「平和国家」としての存在感を発揮するためのリード役を果たし、政府に対して対人地雷禁止条約やクラスター(集束)弾禁止条約の締結を政治決断させました。
その後も公明党は、日本の技術力を生かした地雷除去機や探知機などの開発を推進し、被害国における地雷除去支援に貢献。紛争終結後の避難民の定住促進や開発などに不可欠な地雷、不発弾の除去を支援することにより、平和定着を後押ししてきました。
2、隙間のない法制の整備
「専守防衛」に徹した新3要件
近年、安全保障環境が厳しさを増す中で、日本の存立を全うし、国民の生命を守るためには、新たな国際環境に対応した総合的な安全保障の取り組みが必要です。具体的には、日米同盟の堅持を前提に、隙間のない安全保障法制を整備することによって他国に日本攻撃を思いとどまらせる「抑止力」の向上と、経済・食糧・エネルギーといった課題や気候変動による自然災害など安全保障を幅広い観点から捉え、さまざまな脅威の出現を未然に防ぐ「外交力」の強化を進めます。
その意味で、昨年末、外交・安全保障の司令塔機能を持つ国家安全保障会議(日本版NSC)が設置され、その下で、戦後初めて、日本がとるべき具体的な外交政策、防衛政策を中心とした国家安全保障戦略が策定されたことは大きな意義がありました。
さらに、安全保障環境の変化に対応した切れ目のない法整備のため、自民、公明の与党両党は、(1)有事でも平時でもない、武力攻撃に至らない侵害(グレーゾーン事態)への対処(2)PKOなど国際平和協力をめぐる課題への対応(3)憲法9条の下で許される自衛の措置―について濃密な協議を行い、その結論を踏まえ7月1日に安保法制整備の基本方針が閣議決定されました。
その柱となる自衛権発動の「新3要件」は、(1)我が国に対する武力攻撃が発生した場合、または我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、(3)必要最小限度の実力を行使する―という内容です。
これは、武力の行使は日本を防衛する場合だけに限られ、他国の防衛それ自体を目的とする、いわゆる集団的自衛権の行使は許されないという憲法9条の規範を何ら変えるものではなく、「専守防衛」に徹する平和主義に貫かれています。また新3要件は、憲法9条の下で認められる「自衛の措置」の限界を示したものであり、もしこれ以上変える場合は「憲法改正が必要」(横畠裕介内閣法制局長官)となることも確認しました。
新3要件について熊本県立大学の五百旗頭真理事長(前防衛大学校長)は「戦後日本が大事にしてきた平和を愛する精神がつきることなく息づいているように感じられる」と指摘、閣議決定に果たした公明党の役割については「戦後日本の伝統である平和重視を体して、政府が不用意に跳躍するのをチェックしつつ、難しくなった安全保障環境に日本が堅実に対処するようリードした」(本紙7月12日付)と評価しています。
3、日米同盟の実効性確保
平和主義の原則を反映し法制への国民の懸念払拭
一方、日本の防衛は、日米安保条約に基づき、自衛隊と日本に駐留する米軍が平時から共同で活動に従事していますが、その実効性を確保するためには平時から有事に至るまで、隙間のない法整備が必要です。
新3要件に基づいて今後、法整備を進めていくことになりますが、法制上の隙間のない万全な備えによって、日本を守るための「抑止力」が高まるだけでなく、アジア太平洋地域の安定の「礎石」である日米安保条約の信頼性が向上し、地域の平和と安定に資することが期待されます。
今後、閣議決定に基づいて、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直し、さまざまな立法措置や法律改正が行われます。その際、閣議決定で確認した平和主義の原則がしっかり反映されるようにすることが、「平和の党」としての公明党の責務であり、それによって安保法制整備に対する国民の懸念を払拭し、理解が深まるよう取り組んでいきます。
4、脅威を未然に防ぐ外交
国際法や法の支配重視し紛争の平和的解決めざす
今回の閣議決定では、公明党が外交の重要性を強く訴えた結果、国際法にのっとった行動や法の支配を重視するなど、紛争や意見の違いを対話によって平和的に解決していく方針も明記されました。
とりわけ、海洋国家であり、資源のない日本にとって死活的に重要な海洋秩序の維持や、自由貿易体制を守るため、日本は国際的なルールづくりを主導することが重要です。
同時に現在の世界は、貧困や格差の拡大、感染症、気候変動などの環境問題、テロや麻薬などの国家の枠を超えた問題が個人の生存と尊厳を脅かしており、「人間の安全保障」の観点から緊急かつ重要な課題となっています。また、途上国の人口増や経済規模の拡大によるエネルギー、食糧、水資源の需要増大が新たな紛争の原因となり、国際社会の平和と安定に影響をもたらす可能性も指摘されています。
こうした地球規模の問題は、一国のみでは対応できず、グローバルな発想と行動が不可欠です。日本は国連をはじめとする国際機関への貢献や、途上国への開発援助の推進などに、これまで以上に取り組むことが求められます。
また、日本の魅力である文化や技術力の発信といったソフトパワーを活用するとともに、日本の主張や立場を国際社会に浸透させる交渉力や広報文化外交などの強化に努め、平和で安定した国際社会の創出に積極的な役割を果たすべきです。
Ⅳ 東アジアの「和解」とアジア太平洋の「共存共栄」へ
1、東アジアの現状と課題
日中、日韓の「共通利益」を拡大
国際通貨基金(IMF)によると、アジアの国内総生産(GDP)は20兆ドルと世界全体の3分の1近くを占め、現在の傾向が続けば、アジア経済は20年以内に米国経済、欧州経済を合わせた規模を追い抜くと予想されています。中でも、世界第2位の経済大国である中国、3位の日本と、韓国の3カ国だけで世界のGDPの20%を超えており、東アジアは世界経済の牽引役として期待されています。
しかし、東アジアでは、南北に分断された朝鮮半島で軍事的な緊張状態が続き、中国と台湾の間も経済関係が緊密化しているとはいえ、潜在的な不安定性があります。特に、核・ミサイル開発を継続する北朝鮮は、その行動が見通せず、地域の不安定要素となっています。東アジアは、冷戦の構図を引きずる地域性や、ヨーロッパのような強力な地域機構もないことから、政治・安全保障の面で安定しているとは言えません。
また、ここ数年、日本と中国、韓国との関係が険しさを増しています。日中、日韓には領土をめぐる外交上の課題や、「歴史認識」「従軍慰安婦」をめぐる問題も横たわっています。これに対し、二国間の首脳会談が開かれない異常事態が続いているだけでなく、相手国に対する批判の応酬も目に付き、それが各国の国民感情にも悪影響を及ぼしていることが、各種世論調査の数字に表れています。
その一方で、観光などを目的に中国、韓国から日本を訪れる人が増加傾向にあることも事実です。政治・外交面の課題や国民感情の悪化が、経済を含む関係全般の縮小をもたらす悪循環は、何としても避けなければなりません。そのためにも、未来志向の日中、日韓関係を構築するとともに、拉致・核・ミサイル問題などの包括的解決による日朝国交正常化を実現し、東アジアの「和解」と「平和的共存」へとつなげる粘り強い外交を展開しなければなりません。
2、中国、韓国と関係改善へ
海上連絡メカニズムなど信頼醸成の仕組みつくれ
北京・人民大会堂未来志向の日中、日韓関係を築く上で大事なことは、第一に各国の「共通の利益」につながる分野での協力を拡大、深化させていくことです。
日本にとって日中関係は最も重要な二国間関係の一つであり、日中関係が安定するかどうかは、アジア太平洋地域や世界の平和、安定と発展に直接かかわる問題です。日中間で意見の違う問題があったとしても、全体の関係に影響を与えないという賢明な対応が求められます。
中国では、経済の高度成長の過程で経済格差、都市化、環境汚染などさまざまな課題が浮き彫りになっていますが、この中には、日本が高度経済成長を経験した際に教訓として学び、乗り越えてきた課題もあります。例えば、環境保全や人口構造の変化に対応した社会福祉政策、食品の安全など、日本の経験と知見を中国と共有し、協力できる分野がたくさんあります。こうした共通の利益につながる分野での協力を広げていくことを関係改善の第一歩にすべきです。
公明党は第2次安倍政権の発足間もない昨年1月、山口那津男代表を団長とする訪中団を派遣し、中国共産党の習近平総書記(同年3月に国家主席に就任)と会談しました。その際、総書記は、日中関係40年間の発展を支えてきたのは四つの政治文書(1972年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明)にあると繰り返し語りました。この四つの政治文書の柱である日中平和友好条約には、主権・領土の相互尊重や武力行使の回避、覇権を求めないことなどが明記されています。日中両国は、今こそ四つの政治文書の精神に立ち返り、政治・経済・文化などあらゆる分野で「戦略的互恵関係」の実質が深まるよう、大局観に立った対応が求められます。
例えば、エネルギー問題は両国共通の課題であり、「東シナ海を平和・協力・友好の海とする」ことを確認した08年の日中共同声明に基づき、東シナ海のガス田共同開発を進めるべきではないでしょうか。
そのためにも、まずは首脳会談を開催し、「共通の利益」となる分野についての認識を共有し、具体的な協力の在り方などを協議することが必要です。さまざまな問題があるからこそ、首脳間の胸襟を開いた対話により事態を打開するしかありません。日本政府には、政府間のみならず、経済界や学術・文化、民間レベルなど、あらゆるチャンネルを活用し、首脳会談の早期実現に全力で取り組むよう求めます。
一方、韓国は基本的な価値観と利益を共有する重要な隣国であり、安全保障上の問題である北朝鮮との関係からも緊密な連携が必要です。特に、北朝鮮問題の平和的解決は日韓両国のみならず、地域全体の共通の利益でもあり、こうした視点から協力関係を築いていくことが重要です。
来年は日韓国交正常化から50年を迎えます。韓国の朴槿恵大統領は今年8月15日の演説で、国交正常化50年を機に「未来志向の友好協力関係をつくらなければならない」と強調しました。こうした対話の機運を生かして首脳会談を実現し、懸案の解決に努めていかなければなりません。
村山・河野談話の歴史認識を堅持
第二に、領土や歴史認識などの政治課題については、事態をエスカレートさせない慎重な取り扱いと、現実的な対応を積み重ねることを訴えたい。
領土主権の問題については、日本として毅然とした対応を貫くとともに、国際社会に日本の立場と主張を明らかにし、関係国との冷静な対話を通じた平和的解決をめざすことが基本です。こうした問題の解決には長い時間を要するため、当面できることを一歩一歩進めるアプローチが大切です。
近年、日本の尖閣諸島周辺や東シナ海の海上、空域において日中間の緊張が高まっており、不測の事態が起きることも懸念されます。既に、日中の防衛当局間では、危険性があった事案の検証やホットラインを設置するなどして、不測の事態を回避するための「海上連絡メカニズム」について事務レベルで合意していますが、これを空域の危機管理を含めて両国の正式合意とするよう協議を急ぐべきです。また、両国は「海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)に基づく「日中海上捜索・救助協定」でも原則合意しており、速やかな協定締結が課題になっています。まずは、こうした制度的な仕組みづくりに取り組み、両国の信頼醸成に努めるべきです。
一方、日中、日韓の「歴史」をめぐる問題については、相手国への感情的反発が制御できないレベルまで高まるのを抑える冷静な対応が、それぞれの政府に求められます。特に、政治指導者は、この問題を取り上げることの是非について冷静な認識を持つことが大切です。感情的な言動やナショナリズムを煽るような対応は、厳に慎まなければなりません。
日本政府としては、第2次世界大戦と植民地支配への反省を公にした村山談話と、慰安婦問題に関する河野談話を引き続き堅持することが重要です。二つの談話に示された歴史認識は、中韓だけでなく、他のアジア諸国、米国や欧州も含む国際社会の共通の認識となっています。
中韓との交流重ねた公明党の役割大きい
日本と中韓両国がさまざまな問題を乗り越えて信頼を築くためには、政府間の外交だけでは十分ではありません。これまで日中、日韓関係を発展させてきたのは、経済関係をはじめ、文化・学術交流、自治体間の姉妹交流、人々の往来などの積み重ねのたまものであり、今後も政府間の外交とさまざまなレベルの交流を組み合わせた重層的な外交が不可欠です。
公明党は、日中国交正常化に大きな役割を果たしたのをはじめ、結党以来、通算で26次に及ぶ党訪中団を派遣。「日中友好こそが、平和外交の要」であると一貫して主張し、着実に両国の友好の絆を強めてきました。韓国とも、日本国内における在日韓国人の地位向上の取り組みや、訪韓団派遣などを通し、友好関係を育んできました。
近年は党青年委員会が訪中、訪韓団を派遣するなど新たな世代の交流にも取り組んでいます。公明党は、長年にわたり中韓両国との友好交流を積み重ねてきた実績を生かし、両国との関係改善に積極的な役割を果たしていきます。
北東アジアで「核不使用」の協議進めよ
北朝鮮問題については、関係国と緊密に連携しつつ、6者会合共同声明や国連安全保障理事会決議に基づく非核化等に向けた具体的行動を北朝鮮に求めていくとともに、「北東アジア非核地帯」をめざし、6者会合参加国による「核不使用宣言地域」の設置に向けた協議を開始することを提案します。
日朝関係については、日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて取り組んでいくのが基本です。特に、拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なしとの基本姿勢の下、一日も早い全面解決に向けて全力で取り組むよう求めます。
3、多国間の対話・協力を拡大
アジア太平洋地域の多国間の対話・協力の枠組みを活用した外交は、日中、日韓関係の改善や地域の安定、発展を築く上で極めて重要です。その際、我が国は米国との協力関係を維持しつつ、東南アジア諸国連合(ASEAN)と緊密に連携することを基本にすべきです。
地域安保のルールづくりと制度化を
自然災害の脅威に対する共同研究、協力の具体化も
アジア太平洋地域には、APEC(21カ国・地域)をはじめ、東アジア首脳会議(EAS、18カ国)、ASEANと日中韓でつくるASEAN+3(13カ国)、ASEAN地域フォーラム(ARF、26カ国とEU)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス、18カ国)などの重層的な協力と対話の枠組みが存在します。そのいずれにも日本、中国、韓国が参加しており、ASEANを中心とした協議体が多いのも特徴です。
中でもARF、ADMMプラスは米国、ロシア、オーストラリア、インドなども参加した安全保障対話と協力の枠組みであり、これを信頼醸成や紛争予防の実効的な組織として発展させることによって、地域安全保障のルールづくりと制度化をめざすべきです。
また、自然災害、感染症、国際組織犯罪などの問題は「広い意味での安全保障」の一部であり、この分野での多国間協力も重要な課題です。特に、東アジアから東南アジアは地震や火山、台風など自然災害の常襲地域であり、いざというときに備えた国際協力の枠組みができれば、地域の戦略的互恵関係を深めることが期待できます。
この地域では、日本を襲った東日本大震災をはじめ、スマトラ島沖地震、フィリピン台風災害などで国際的な災害救援活動が行われたほか、ARFでは近年、安全保障に関する優先課題の一つとして「災害救援」を掲げ、災害救援実動演習をこれまでに3回(09年、11年、13年)実施しています。自然災害に関する国際協力は、国の垣根を越えた助け合いが基本であり、軍事力に偏した伝統的安全保障の質的転換を図ることにもつながります。日本はこの分野での多国間協力の枠組みづくりを積極的に推進すべきです。
その意味でも、来年3月に仙台市で開催される「第3回国連防災世界会議」を契機に、自然災害の脅威に対する多国間の共同研究や協力の具体化に向けた協議を本格化させるよう提案します。
経済連携の拡大で相互依存関係を深化
一方、世界中でヒト・モノ・カネ・情報が自由に行き来する時代を迎え、二国間の経済連携から、さらに広い範囲の経済連携に向かう流れが加速化しています。現在、日中韓の自由貿易協定(FTA)や、ASEAN10カ国と日中韓、インド、オーストラリアなどを含めた16カ国の間で東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が行われています。これが締結されれば日中韓の協調が進み、東アジアの相互依存関係を深化させることになります。さらに、日本は環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加国であり、日・EUのFTAの協議も進めています。いずれの交渉にも参加している日本は有利な位置にあり、この立場を活用することにより、地域の発展に積極的な役割を果たすことができるはずです。
公明党は、経済や安全保障分野での相互依存関係の深化や、災害救援などでの多国間協力の拡大を通して、東アジアの平和と安定、ひいてはアジア太平洋地域の「共存共栄」の実現をめざし、日本の外交・安全保障政策をリードしていく決意です。
Ⅴ 国際社会の平和と安定への貢献
1、国際貢献の能力備えた日本
国家再建の人材育成が必要
地球規模で相互依存関係が深まる中、世界のどこで紛争が起こっても、それは直ちに国際的な安全保障に悪影響を及ぼす時代になっています。
そのため、紛争解決への協力や国際的な安全保障環境の改善に向けた努力が世界に求められています。ただし、平和憲法をもつ日本は、国連安保理決議に基づく国際法上合法的な紛争解決のための活動であったとしても、それが武力行使を伴う場合は参加することができません。しかし、それにもかかわらず、日本は国際平和に大きく貢献できる能力を持っています。
公明党は、(1)国連の平和活動(ピース・オペレーション)への積極参加(2)人間の安全保障のためのリーダーシップ発揮(3)核廃絶と通常兵器軍縮に向けた努力―の3分野において、日本が独自の貢献を進めることができると考えます。
2、国連の平和活動への貢献
平和国家の存在感さらに
国連の平和活動は多様化しています。特に、停戦の維持から平和協定の締結までを支えたPKOの後を引き継いで実施される平和構築活動が紛争再発防止のカギとなっています。
平和構築活動は、インフラ建設から国家機構の再建までを包括的に支援するため、戦後復興の経験と、自力更生を促すための人材育成に実績がある日本が大きく貢献できる分野です。自衛隊派遣によるインフラ整備は当然として、さらに、紛争後の国家再建を担う人材育成を支援する「国連平和構築研修センター」の創設をめざすべきです。日本は人材育成の分野で国連の機能強化に貢献すべきと考えます。
3、「人間の安全保障」の推進
「人間の安全保障」を開発支援の理念としてだけでなく、紛争防止をめざす新たな安全保障の基礎理念にするよう国連で訴え続け、着実に理解の輪を広げてきたのは日本です。
「人間の安全保障」には、貧困による欠乏をなくすための「開発の推進」、武力紛争の恐怖をなくすための「平和の確保」、尊厳を持って生きるための「人権の保障」の3本柱が必要であり、2012年に国連総会で全会一致で採択された「人間の安全保障決議」で明確にされています。
特に、「人間の安全保障」がめざす平和に関しては「武力による威嚇もしくは武力の行使または強制措置を求めない」と明記され、武力行使をしてでも住民を保護するという人道的介入とは一線を画すことが明確にされました。これによって、「人間の安全保障」が武力介入の口実に使われるのではないかとの途上国の懸念は払拭され、平和国家としての日本の存在感もさらに大きくなります。
平和構築活動と「人間の安全保障」を進めるためには、人的貢献と財政的貢献の両面が必要です。このうち財政的貢献は60年の実績がある政府開発援助(ODA)が重要です。
ODAは途上国からの要請に基づく開発協力が基本であり、どこまでも途上国のオーナーシップ(自立性・自主性)に貢献することが目的です。近年議論になっている、途上国の治安組織の改革や海賊対策など広い意味での安全保障に関わる協力については、軍事支援にならないこと、紛争を助長しないことなど平和国家のODAに反しない基準を明確にする必要があります。
01年9月11日の米国同時多発テロ以降、米国をはじめ欧米諸国はODAの重要性を再認識し増額しています。日本もNGOへの支援や民間資金との連携強化などを進め、質量共に世界の模範となるODAをめざすべきです。
4、核廃絶への取り組み
「禁止条約」へ核保有国と非核保有国の橋渡し役を
核廃絶は現在、核拡散防止条約(NPT)の下で核軍縮を進めながら核廃絶をめざす一方で、核兵器の非人道性を根拠にして核兵器禁止条約(NWC)の実現を一気にめざすべきだとする考え方も強まっています。
核保有国は核兵器によって平和が保たれるとする核抑止論を維持しており、NWCの早期実現論とは距離を置いています。また非核保有国の中には、核保有国の拡大抑止(核の傘)に自国の安全を依存している国もあるため、非核保有国のすべてがNWCの早期実現論について足並みがそろっているわけでもありません。
しかし、核廃絶への道が暗礁に乗り上げているわけではなく、例えば核抑止に関し、核保有国がNPTを順守している非核保有国に対して核攻撃をしないことを誓約する「消極的安全保障の保証」(NSA)を条約化するという考え方や、核兵器保有の目的を相手からの核攻撃の抑止に限定する「核の役割低減」を進める政策も現実的テーマになっています。
また、一定の地域内にある非核保有国が団結し、核保有国にNSAを迫る「非核地帯」もすでに南半球の大半に及んでいます。核保有国は北半球に偏在していますが、公明党は10年に6者会合参加国(日、米、中、ロ、韓、朝)による「核不使用宣言地域」の設置に向けた協議の開始を提案しました。これは核保有国を含む北東アジアで「核不使用」の協議を進めることで、核廃絶論議に貢献できると考えたからです。
また、NWCについても核兵器違法化から開発・保有・使用までを一気に禁じる「包括的」条約をめざす方法と、まずは核の違法化を宣言する条約か、核の使用禁止だけを先行させる条約をつくり、核廃絶は漸進的に進める方法も選択肢として議論されています。
このように、核保有国と非核保有国の「断絶」ではなく、「対話」を可能にするテーマが存在します。戦争被爆国でありながら米国の拡大抑止に依存している日本は、その「対話」の触媒となり、橋渡し役を務めるべきです。
そのためにも、日本が率先して米国と「核の役割低減」について対話を重ねることが重要です。これは「核に依存しない安全保障政策」への第一歩であり、核抑止論の再考に道を開くことになります。同時に、NWC実現に向けた具体的ステップとして、「核の非人道性会議」の定期開催化と日本での開催実現、さらに会議への核保有国の参加をめざす必要があります。
さらに、公明党が訴えてきた対人地雷、クラスター弾禁止などの通常兵器軍縮と、武器貿易条約(ATT)などの移転規制は、国際的な安全保障環境の改善に不可欠です。とりわけ移転規制は「事実上の大量破壊兵器」である小型武器を紛争地に入れないための重要な方法であり、日本はさらに厳格な国際的な安全保障輸出管理の体制構築に貢献すべきです。