e日銀の物価目標 経済全体を見据え政策判断を
- 2015.05.07
- 情勢/解説
公明新聞:2015年5月4日(月)付
日本銀行(日銀)は、最新の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、国内経済の現状を「底堅い」と表現した。東京市場の平均株価が一時2万円台を回復し、輸出産業を中心に業績回復が進んでいる点からすると妥当な見解だ。
展望リポートは、物価が継続的に下落するデフレからの脱却をめざし、日銀が大規模な金融緩和(量的・質的金融緩和)に踏み切って、2年が経過した節目での発表となった。発表で注目を浴びたのは、デフレ脱却の目安である消費者物価の前年比上昇率2%に到達する時期を「2016年度前半頃」とした点だ。体の調子を計る"体温"に例えられる物価は、デフレが深刻だった1990年代半ば以降、上昇率はゼロかマイナスという状態だった。
それが15年度の消費者物価の上昇率(消費税率引き上げの影響を除くケース)は0.8%にアップする見込みで、16年度は2.0%となる見通しだ。到達の遅れを指摘する声もあるが、物価は目安にすぎない。金融緩和と自公連立政権による経済対策で、経済は順調な回復軌道にある。
物価上昇の鈍さは、予想を上回る原油安の影響がある。市場には日銀が物価目標を達成するため、一段の金融緩和に動くとの観測もあったが行われなかった。
景気の回復傾向がはっきりし始めた米国が、利上げ時期を探り始めている最中だ。追加緩和と米国の利上げが重なるような事態になれば、過度な円安を進ませて経済に冷水を浴びせかねない。ギリシャ情勢など金融政策の判断を難しくする材料も少なくない。その意味では、日銀は適切な金融政策を実施しているといえよう。今後もそうした慎重な姿勢が欠かせない。
今年の春季労使交渉では、ベースアップ(基本給の引き上げ)を実施する企業が相次いだ。賃上げは個人消費を促し、金融緩和に頼らない自然な物価上昇を後押しする。その結果、経済成長の果実が全国の隅々にまで行き渡るだろう。こうした流れを強めるには、賃金上昇ペースを確かにする政策が必要だ。
今夏には成長戦略の再改定がある。これまで以上に個人の暮らし向きを底上げする政策を盛り込むべきだ。