eコラム「北斗七星」
- 2015.06.01
- 情勢/社会
公明新聞:2015年6月1日(月)付
引退組が現役の悪いやつらを懲らしめる。そんな設定の物語が小説やテレビ、映画で話題だ。還暦を迎えた昔の悪ガキ3人組が「俺たちのことはジジイと呼ぶな」と町内の悪を退治するのは有川浩さんの『三匹のおっさん』◆一方、映画の別の物語では、「力を貸せ」と昔の仲間から呼び出された老人が入院先を抜け出し活躍する。そのシーンに、ある実話を思い出した。特別養護老人ホームに入所する、今は病で体が不自由な元ピアニストが再生する話だ◆彼女は95歳。脳梗塞で半身不随、認知症もある。が、ピアノ演奏に再挑戦することで奇跡的に復活し、半世紀ぶりに演奏会を開く。産経新聞(2008.9・17)の連載『外出したい街づくり』(神戸大名誉教授 早川和男)で読んだ◆同記事には次のようなケースもあった。「中国・大連の有料老人ホームを訪ねて驚いた。入居者が働き、入居費用を半額にしてもらったり、賃金をもらったりしている。元コックは毎日、台所で食材の準備、元看護師長は入居者の人生相談。みんな背筋がしゃんとしている」◆筆者は言う。「すべての人間には人生を生きて身に付いた能力がある。それを引き出すことは、高齢者の人格尊重の核心であり、高齢者福祉の神髄だ」。高齢化が進む日本社会。大切にしていきたい視点だ。(六)