e平和安全法制 荒木参院政審会長の質問(要旨)
- 2015.07.28
- 政治/国会
公明新聞:2015年7月28日(火)付
27日の参院本会議で行われた「平和安全法制」関連法案に関する公明党の荒木清寛参院政策審議会長の質問と、安倍晋三首相の答弁の要旨を一問一答形式にまとめた。
パワーバランスが変化
軍事技術の高度化も脅威に
荒木清寛参院政策審議会長 平和安全法制は残念ながら、国民の理解はまだ深まっていない。
国民の理解を進めるために、参議院の審議では首相および閣僚は丁寧で真摯な答弁に努めること、また安倍首相にはあらゆる機会を利用して国民への説明を尽くすことを求めたい。公明党も、本院での審議で議論の工夫と努力を重ねることを決意している。
安倍晋三首相 平和安全法制は、わが国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中で、憲法9条の範囲内で国民の命と平和な暮らしを守り抜くために不可欠な法案。政府としては国民のさまざまな意見に真摯に耳を傾けながら、今後の参院における法案審議においても工夫を凝らして分かりやすく丁寧な説明を行うよう心掛けていく。
荒木 なぜ今、平和安全法制が必要なのかを聞く。昨年7月1日の閣議決定は、わが国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容し、さらに変化し続けていることを指摘している。具体的には、「冷戦終結後の四半世紀だけをとっても、グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発および拡散、国際テロなどの脅威により、アジア太平洋地域において問題や緊張が生み出されるとともに、脅威が世界のどの地域において発生しても、わが国の安全保障に直接的な影響を及ぼし得る状況になっている」と記述している。
私たちはこの認識を共有している。衆院特別委員会の参考人質疑では、民主党政権下で防衛相を務めた森本敏拓殖大学特任教授が、「2006年ごろから東アジアにおける構造的な変化が起きている」として、この地域における安全保障環境の近年の急速な変化について指摘した。極めて重要だ。
こうした根本的な変化に対応するためには、わが国の安全保障の機軸である日米防衛協力体制を強化し、その信頼性を向上させる以外にない。そのための今回の法制の整備であると確信している。
そこで、わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることを、具体的に説明してほしい。その上で平和安全法制を、なぜ今成立させなければならないのか。
首相 グローバルなパワーバランスの変化がアジア太平洋地域でも起きている。具体的には、中国が地域や国際社会における存在感をますます高める一方、米国は依然として世界最大の総合的な国力を有する国であるものの、国際社会における相対的な影響力は変化している。中国の公表国防費は1989年以降、ほぼ毎年、2桁の伸び率を記録し、過去27年間で約41倍となっており、今年度においては中国の国防費は日本の防衛予算の3.3倍に達している。
東シナ海においては、尖閣諸島周辺海域において、中国公船による領海侵入が繰り返されている。南シナ海においては中国が活動を活発化し、大規模かつ急速な埋め立てを一方的に強行している。
また、軍事技術の高度化により、例えば北朝鮮は日本の大半を射程に入れる数百発もの弾道ミサイルを配備し、発射されればおよそ1000キロを約10分で到達できる状況になっている。また、北朝鮮は2006年以降、3回の核実験を繰り返し、ミサイルに搭載できる核兵器の開発を進めているなど、地域の安全保障に与える脅威が深刻化している。
このようにわが国を取り巻く安全保障環境は1972年に政府見解がまとめられた時から想像もつかないほどに大きく変化しており、もはやどの国も一国のみでは自国の安全を守れない事態となった。
平和は唱えるだけでは実現しない。平和安全法制は安全保障環境がますます厳しさを増している中において、国民の命と幸せな暮らしを守るため、そしてそのために地域や世界の平和と安定の確保により一層積極的に貢献していく上で必要不可欠なものだ。
専守防衛の基本を堅持
平和国家の歩みは変わらず
荒木 戦後70年間、わが国は日本国憲法の下で平和国家として歩み続けてきた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。この根幹は一切変えるべきでない。
その前提に立って国民の命と暮らしをいかにして守るのか、公明党は議論を重ねた。言うまでもなく、いかなる紛争も平和外交によって国際法に基づく解決を行うことが根本だ。そこで公明党も、「人間の安全保障」の理念に基づく平和外交を、与党として一貫して推進してきた。
中でも、日中および日韓関係の改善は急務だ。首脳同士が胸襟を開いて粘り強く対話を進めることをはじめ、両国との関係改善をいかに図るのか。
首相 わが国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきている。わが国の平和国家としての歩みはこれからも決して変わることはない。今回の平和安全法制の整備により、わが国の平和国家としての歩みをより一層、確固たるものにしていく。
外交を通じて平和を守ることが重要なのは言うまでもない。わが国の平和と安全を確保するために、私は近隣諸国との対話を通じた外交努力を重視している。実際、私は首相就任以来、地球儀を俯瞰する視点で積極的な外交を展開してきた。
そして、法の支配を重視する立場から、(1)主張する時は国際法に則って主張すべき(2)武力の威嚇や力による現状変更は行ってはならない(3)問題を解決する際は平和的に国際法に則って解決すべき―との3原則を国際社会で繰り返し主張し、多くの国から賛同を得てきた。
中国とは習近平国家主席との2度にわたる首脳会談を通じ、戦略的互恵関係の考え方に基づいて関係を改善していくことで一致している。
韓国とも日韓国交正常化50周年を迎え、関係改善に向けて話し合いを積み重ねてきている。隣国ゆえに日韓には難しい問題があるが、だからこそ前提条件を付けずに、首脳レベルでも率直に話し合うべきだ。私の対話のドアは常にオープンだ。
紛争を未然に防ぐための法整備
荒木 国民の命と暮らしを守るためには、外交努力に加えて、万が一への備えも怠ることは許されない。そのための抑止力、すなわち紛争を未然に防止するための法整備が、平和安全法制だ。今回の平和安全法制の整備は、原理、原則そして視点の3段階で成り立っていることを公明党は指摘してきた。
「原理」とは戦争の放棄を定めた憲法9条また幸福追求権を定めた憲法13条との適合性を保つこと、「原則」とは自衛隊という実力組織を出す以上は、明確な法律上の根拠が必要であることだ。そして「視点」とは、制度があって要件が満たされれば、必ず自衛隊を派遣するものではなく、その時々の適切な政策判断があるべきだという点だ。
その政策判断のための「視点」として、第1に国益・国際情勢・国内世論などを踏まえた、わが国の主体的判断であること、第2に自衛隊の能力・装備・経験などに照らして自衛隊にふさわしい役割であること、第3に平和外交努力、すなわち非軍事の貢献や外交交渉と相まっての判断であること―の3点が重要だ。
法の施行に当たっては、この三つの視点に基づく慎重な政策判断を政府の方針とすべきだ。
首相 平和安全法制が整備されても、法律の要件が満たされれば、必ず自衛隊を派遣するわけではない。平和安全法制に基づき、実際に自衛隊が活動するに当たっては、慎重に政策判断を行っていくこととなる。政策判断を行うに際しては、わが国の主体的判断であること、自衛隊の能力・装備・経験などに照らして、自衛隊にふさわしい役割であること、その前提となる外交努力を尽くすこと―などを重要な視点として、慎重に政策判断を行っていく。
他国防衛は認められず
自衛の措置は9条の範囲内
荒木 従来は、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるのは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると認識されてきた。
しかし現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、他国に対する武力攻撃を契機とする場合であっても、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合があり得ることについて、公明党は政府と認識を共有するに至った。そうした存立危機事態とは具体的にどのような場合であるのか。
そして、この存立危機事態に対処するために、憲法9条の下で許される自衛の措置としての、厳格な新3要件を定めた。新3要件はあくまでも自国防衛のための要件であって、憲法の専守防衛の大原則の枠内である。
首相 存立危機事態とは具体的には、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合において、そのままではすなわち、その状況の下、武力を用いた対処をしなければ、国民にわが国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況をいう。
存立危機事態において、新3要件の下で許容されるのは、あくまでもわが国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、わが国を防衛するための自衛の措置としての武力の行使に限られる。これは、他国を防衛することそれ自体を目的とするものではなく、あくまでも憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢である専守防衛の枠内であることは言うまでもない。
平和支援法案
例外なき国会 事前承認を実現
荒木 重要影響事態安全確保法案と国際平和支援法案に基づく後方支援活動の実施、そして国際的な平和協力活動への参加について、自衛隊の海外派遣が政府の自由になり、無制限な派遣とならないか懸念する声が、国民の間にはある。そこで公明党は、「自衛隊の海外派遣3原則」を与党協議の中で提起した。
すなわち、第1に国際法上の正当性の確保、第2に国民の理解と国会関与など民主的統制の実現、第3に自衛隊の安全確保。この3原則が今回の法制に具体的にどう盛り込まれているか。
特に、国会承認には、わが党の強い主張により、国際平和支援法案では例外なき事前承認とされた。他の場合の国会承認についても極力事前承認とすべきだ。また、国会承認に際しては、その判断の基礎となる十分かつ詳細な情報を政府は提供する必要があると考える。
さらに、後方支援には、防衛相は自衛隊の部隊などが円滑かつ安全に活動することができるよう、実施区域を指定するとしている。具体的にどのような地域を指定するのか。
首相 公明党が提示し、本年3月の与党協議会で合意された3原則、すなわち自衛隊が国際法上の正当性を有すること、国会の関与等の民主的統制を適切に確保すること、自衛隊員の安全確保のための必要な措置を定めることを、明確に法律に定めている。
具体的には国際平和支援法や国連平和維持活動(PKO)法において、国連や国際機関の決議や要請等がある場合のみ自衛隊を派遣できること。国際平和支援法では、例外なき事前の国会承認を要すること。PKO法では停戦監視等の業務につき原則、事前の国会承認を要すること。両法において自衛隊員の安全確保に対する配慮を義務付けることなどの内容を具体的かつ明確に指定している。
特に国会承認について今般の安全保障法制の中には事前の国会承認により難い場合、事後承認が認められているものもある。そのような手段が認められているものについても、原則はあくまで事前承認であることから、政府として可能な限り、国会の事前承認を追求していく考えだ。
自衛隊の活動の実施に関する情報開示について、政府としては国会および国民の理解を十分にいただけるよう可能な限り最大限の情報を開示し、丁寧に説明する考えだ。
後方支援における実施区域の指定に関して、今現在、戦闘行為が行われていないだけでなく、自衛隊の部隊等が現実に活動を行う期間について、戦闘行為がないと見込まれる場所を指定する。したがって攻撃を受けない安全な場所で活動を行うことは従来と変更ない。