e次世代につなぐ新農法

  • 2015.08.14
  • 情勢/社会
[画像]メインイメージ

公明新聞:2015年8月14日(金)付



国際大会で金賞 風評払拭へ"味で勝負"

コメ農家の挑戦 福島・相馬市



東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から4年5カ月が過ぎた。福島県の農家は安全でおいしい農作物を丹精込めて育て、いまだに根強く残る風評被害に立ち向かっている。地元・相馬市のコメのブランド化をめざし、"味で勝負"のコメ作りに挑戦する佐藤徹広さん(64)を訪ねた。(東日本大震災取材班)


地元産をブランドに


「ひとめぼれが78センチ、コシヒカリは85センチになったかな。高温が続いて穂の出が去年より10日くらい早いね」。8月上旬、青々と伸びる稲穂の順調な生育状況に、佐藤さんの笑顔がこぼれた。


佐藤さんは兼業農家だったが、2010年末に定年退職したのを機にコメ作りを本格化させた。その矢先の11年3月、大震災と原発事故が発生。幸いにも水田に大きな被害はなく、同年5月下旬から農機具メーカーの勧めもあって直播栽培の試みを始めた。


直播栽培は、コメの種もみを田んぼに直接まくことで、苗をハウスで育てる育苗などの工程を省き、労力の軽減、低コスト化につながる。種もみに鉄をコーティングすることで鳥の食害や病害の防止にも有益だ。


佐藤さんには秘めたる思いがあった。ただでさえ、担い手不足が懸念されていたのに、原発事故の影響で福島県浜通りのコメ農家はさらに減っていく。田んぼの管理を仲間に委ねざるを得ない高齢農家が多くなって農地集積を進めれば、農家1人当たりが扱う水田面積が増え、どこかで省力化しないとコメ作りは成り立たない。新たな農法への挑戦は、地域の未来を憂える思いの発露でもあった。


「直播を始めて5年目。やってみて分かることばかりだった」。初めてのことが多い直播栽培は試行錯誤の連続。水や雑草の管理に頭を悩ますこともあった。「毎年、データをノートに細かく記している。失敗なら失敗したなりにどういう収量になるのか。データの蓄積が全て」。


13年11月、佐藤さんの努力が実を結ぶ。直播で育てた同年産コシヒカリが、第15回米・食味分析鑑定コンクール国際大会で金賞に選ばれた。出品された約4000点の中で最高位だ。14年の同コンクールでも金賞に次ぐ特別優秀賞を受賞。2年連続の快挙となった。


もともと、地元・相馬市今田地区の肥沃な土地と水には自信があった。周りには風評被害に気を落とす農家もいるだけに、「地元仲間に元気が戻ればうれしい。福島のコメ、相馬のコメのおいしさを少しはアピールできたかな」。


2度の受賞に手応えを感じつつ、「おれはボランティアみたいなもの。これから直播をしようとする人に教えることができればいい」と豪快に笑い飛ばす佐藤さん。「次の世代のことを考えるからこそ真剣になれる」と言葉を紡ぐその背中に、福島の窮状に立ち向かうコメ農家の決意がにじんでいた。

月別アーカイブ

iこのページの先頭へ