e災害列島"どう備える
- 2015.08.31
- 情勢/社会
公明新聞:2015年8月30日(日)付
地震、火山噴火、台風、大雨――
きょうから「防災週間」
太田国交相に聞く
地震や火山噴火、台風、大雨などに見舞われ、"災害列島"ともいえる日本の国土。自然災害にどう向き合い、備えるか。きょうから始まる「防災週間」(9月5日まで)や同月1日の「防災の日」を踏まえ、太田昭宏国土交通相(公明党)に話を聞きました。
法改正や防災行動計画策定など警戒、避難体制を強化
――自然災害をめぐるわが国の国土は。
太田国交相 まずは、日本の国土そのものが非常に脆弱です。山が急峻で地質がもろく、大都市の多くが海抜ゼロメートル地帯にあります。世界のマグニチュード(M)6以上の地震の約2割が日本に集中しており、台風の接近も多い上、その大型化に伴い、雨の降り方も局地化、集中化、激甚化が目立ってきました。
また、都市自体が非常に脆弱です。人口が密集し、地下街や地下鉄など地下空間が複雑に存在しています。
さらに、人の危機意識も脆弱になってきているため、行政はもちろんのこと、国民自体の防災意識も大切です。危機管理は本来、危険を感じたら自ら動くことが先決だからです。
――近年の災害状況を踏まえた具体的な対策は。
太田 広島土砂災害から1年が経過しました。このような水害・土砂災害が、毎年のように各地で発生しています。そこで、昨年秋に土砂災害防止法を改正し、土砂災害警戒区域の指定に向けた基礎調査結果の公表や、警戒情報の周知・伝達を促進する体制を整備しました。
ゲリラ豪雨による浸水被害など都市の水害対策については、今年5月に水防法の改正を行い、最大規模の洪水などに係る浸水想定区域図を公表することにしました。
関係機関や住民が取るべき防災行動を時間軸に沿って整理した、タイムライン(防災行動計画)の策定も各地で動き出しています。国レベルではまず、「荒川下流タイムライン」の運用が始まりました。鉄道や警察・消防、学校、福祉施設など関係20機関37部局が連携し、区をまたぐ広域避難や交通機関の運行の停止、高齢者の避難などに着目した取り組みが行われています。
また、首都直下や南海トラフの巨大地震については、例えば首都直下地震対策では、道路啓開(障害物を除去して自衛隊や消防の進路を切り開く)体制の確保と住宅・建築物の耐震・不燃化を推進しています。南海トラフ地震対策では、防潮堤をはじめ、高速道路に住民が駆け上り避難ができる階段の設置や"命の山"の整備を進めています。
火山対策は、観測・監視体制の強化が最も大切です。そのための機材・機器、人員を厚めに配置し、正確な情報が直ちに住民に伝わるよう努めています。
老朽化対策 着実に前進
――公明党は命を守る防災・減災対策に全力で取り組んでおり、特に高度成長期以降に整備された社会資本(インフラ)の老朽化対策に力を注いでいますが。
太田 中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故から、今年の冬で丸3年になります。この事故をきっかけに、老朽化対策やメンテナンスの重要性が大きく注目されるようになりました。
そこで、2013年を「メンテナンス元年」と位置付け、初めの1年間は重要施設を重点的に緊急点検し、同年度末までにおおむね完了させました。次に、14年度は1年間かけて、維持管理に関する基準・マニュアルやデータベースの整備といったルール化を行いました。現在は実践段階である第3段階に入っています。例えば、首都高速道路の1号羽田線では、大規模更新が始まります。
ただ、こうした対策を独自に行うための技術、人、予算が不足している自治体は少なくありません。そこで、防災・安全交付金による財政支援や、国の技術者による橋の直轄診断、難易度が高い橋の修繕については、国が地方自治体に代わって進めています。
――地方自治体が中心となって取り組むべき防災・減災対策についてはどうですか。
太田 例えば、気象庁などは気象観測を基に降雨情報を提供していますが、実際の避難指示は地方自治体に判断が委ねられます。
そこで、避難勧告や避難指示を的確かつ迅速に判断・実施できるように、タイムラインの策定とハザードマップ(災害予測図)の整備が重要になります。土砂災害防止法や水防法の改正に基づいた避難体制の強化等の具体的な対策を実施することが重要です。
防災教育の充実も不可欠です。群馬大学大学院の片田敏孝教授は、児童・生徒への防災教育の重要性を強調しておられます。「どこに、どう逃げればいいか」を常日頃より考える習慣を身に付けるためにも、子どものうちから防災教育を行うことが大切です。
「防災週間」「防災の日」を契機に、国民一人一人が自分自身の災害への脆弱性をチェックしてはどうでしょうか。家庭、電車、職場、学校など、どこにいても、どこに、どうやって逃げるかを具体的に考えてみることが、最も大事な防災訓練になると思います。
"想定外を想定"した対応に力注ぐ
――防災・減災に対する大臣の決意を。
太田 「危機を直視する、脆弱性を直視する」ことが大事です。その上で、"想定外を想定"した対応に力を注いでいきたい。シンプルですが、「備えあれば憂いなし」という言葉に尽きると思います。例えば、豪雨対策については、1時間50ミリ以上の想定外の降雨にも備える必要がありますが、ハード対策だけでは限界があります。1時間75ミリの降雨を想定すると、タイムラインやハザードマップといったソフト面との組み合わせが必須です。
私の、わが家の、わがまちの、国の防災対策を、重層的に積み上げていくことが大事です。災害対策は、自分と家族の命を自ら守る「自助」、行政などが守る「公助」、地域コミュニティーで助け合う「共助」が核になります。これに、「向こう3軒両隣」のような、顔の見える範囲での「近助」を加えた体制をつくることが重要です。