eコラム「北斗七星」

  • 2015.09.02
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年9月2日(水)付



宮沢賢治の『風の又三郎』は、9月1日に転校してきた三郎が十日ほどで学校を去るまでの話だ。別れを予感した同級生が登校すると、担任は「ほかへ行きました」と説明する◆"風の精"の物語だが、現実の世界では、小中高生の自殺にまつわる報道が絶えない。昨秋、仙台市の中1男子がいじめを苦に自ら命を絶った問題で学校が当初、「転校した」と説明していたことが明らかになった。腸が煮えくり返る◆平穏であれと祈りつつ、9月を迎えた。夏休み明け前後に自殺する小中高生が急増していることが、内閣府の調査で分かった。42年間の18歳以下の自殺者数を日付別に調べたところ、9月1日が突出していたという。「学校に戻るくらいなら......」との悲痛な思いを抱え、8月を過ごしたのだろうか◆文部科学省は先週までに、全国の教育委員会にいじめ調査(昨年度分)のやり直しを通知した。自治体間で把握状況が異なり、いじめ認知件数が都道府県で最大83倍の開きがあったというから驚く。中2男子が電車に飛び込んで命を絶った岩手県矢巾町の問題でも、生徒が被害を訴えていたにもかかわらず、学校はいじめと捉えていなかった◆今も、SOSを発する小中高生がいる。消え入りそうな声に心耳を澄ます時である。「ほかへ行きました」で済む話ではない。(也)

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