eコラム「北斗七星」
- 2015.09.07
- 情勢/社会
公明新聞:2015年9月7日(月)付
秋雨前線が停滞し、ぐずつく天気で始まった9月も明日から二十四節気の白露に入る。白露は「しらつゆ」の意。露が発生し秋の気配が感じられるころということ。確かに朝晩の虫の音色も大きくなった気がする◆豊かな日本の季節。「幼児といえども風光の美しさに感嘆し、花が散るのを憂える。この情調は、日本人のもつ世界に冠たる特長かも」。大正・昭和期の活弁家徳川夢声の発言(『問答有用』徳川夢声対談集 阿川佐和子編)◆読みながら、世界的難問を解いた数学者岡潔の言葉も思い出した。「人の中心は情緒」「情緒の中心の調和がそこなわれると人の心は腐敗する。社会も文化もあっという間にとめどもなく悪くなってしまう」。情緒は情調の類語◆『春宵十話』で岡が述べていた見識だが、この「情緒」について人類学者の中沢新一は、同著の解説で次のように指摘していた。「『自然が人間にさしだしてくれるもの』を、上手に受け取るための心の構え」◆「月の満ち欠けや草花、虫や鳥の音とともに暮らし、四季折々の変化とともに暮らすことによって自然と湧き上がる人間の気持ちに気づくのは何より幸せなこと」(『七十二候で楽しむ日本の暮らし』(広田千悦子著)◆夏の疲れを癒やしながら日本の素晴らしさを味わう時間を持つのもいい。(六)