e平和安全法制Q&A 対話のために<下>
- 2015.09.25
- 情勢/社会
公明新聞:2015年9月25日(金)付
Q 憲法9条は武力行使を認めているのか
A 国民の「平和的生存権」と「人権」を守るためだけに認める
憲法の平和主義を定めた9条は、「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」を掲げているため、およそ国際関係において一切の武力行使を禁じているかのようにみえます。
しかし、外国の武力攻撃によって、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるという極限的な場合には、国と国民を守るためのやむを得ない必要最小限度の武力行使をすることまで禁じているとは解釈できません。
これが政府の憲法9条解釈の基本的論理です。1972年(昭和47年)の政府見解は「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない」と述べています。
これに対し、いかなる場合にも武力行使は許されず、必要な対処をせずに国民に犠牲を強いることもやむを得ないとする考え方もあります。
しかし、国民の平和的生存権を明らかにした憲法前文と、幸福追求の権利を保障した13条に照らし、国民の安全を確保する責務をもつ政府としては、とうてい取り得ない解釈です。
Q 日本の安全保障政策の基本理念は何か
A 専守防衛、軍事大国にはならない、非核三原則、文民統制の確保で平和国家の評価築く
政府は、日本の防衛に限って自衛隊の武力行使を認める「専守防衛」を憲法9条に基づく安全保障政策の基本理念と考え、堅持してきました。相手国からの攻撃を阻止するだけで、相手国まで攻め入ることはできません。
安倍晋三首相も「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略である専守防衛が、防衛の基本方針であることはいささかも変更はない」と平和安全法制の国会審議で明言しています。
同時に、他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないことや、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずとした「非核三原則」を守ってきました。さらに、政治と軍事を分離して軍事に対する政治の優越を確保する文民統制(シビリアン・コントロール)の制度を採用してきました。
戦後70年間、日本はこうした努力を積み重ねる中で、現在の平和国家としての評価を築いてきました。今回の平和安全法制は、あくまで万が一への備えであり、今後も日本の安全保障政策の基本理念はいささかも変わりません。
Q 安全保障政策の合憲性は誰が決めるのか
A 裁判になれば最後は最高裁が違憲審査。高度に政治性がある問題の合憲性判断は国会と政府に責任がある
憲法81条が「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定めているように、違憲審査権は最高裁判所にあります。当然、平和安全法制など安全保障政策に関する法律の「合憲」「違憲」を最終的に決めるのも最高裁判所です。
しかし、司法の性格として、裁判所はその法律に関して事件が発生し、訴訟にならない限り判断できません。その上、日米安保条約の違憲性が争われた砂川判決(1959年12月)では、安全保障のような「高度の政治性を有する」法的判断は「司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質」であり、第一次的には内閣、国会の判断に従うべきで、最終的には、「主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべき」との判断を示しました。
そのため、有権解釈ができる内閣がどのように憲法9条を解釈して法案を策定したか、また、国会がどのように判断したかが重要になります。
Q 政府は今回、憲法解釈を変えたのか
A 他国防衛と海外での武力行使を禁じるこれまでの解釈の論理の根幹は維持。解釈改憲の批判は当たらない
自衛隊の武力行使は、自国防衛のための「自衛の措置」に限られ、それを超える他国防衛だけを目的とした集団的自衛権の行使は許されない―この政府の憲法解釈の論理の根幹は平和安全法制でも維持されています。今回、この「自衛の措置」の限界を定めました。
これまで、自衛隊の武力行使は日本への武力攻撃が発生した場合(武力攻撃事態)に限られていましたが、今回、厳しさを増す現在の安全保障環境から見れば、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、その状況下で自衛隊が武力を用いた対処をしないと、日本が武力攻撃を受けたと同様な深刻・重大な被害が国民に及ぶことが明らかな事態も起こり得るとの認識に至り、これを新たに存立危機事態と定めました。
存立危機事態が憲法上許される理由は「自衛の措置」が許される根拠と同じであり、これまでの政府の憲法解釈の範囲内です。「政府が解釈改憲をした」との批判は当たりません。
有権解釈
国家機関(立法府、司法府、行政府)が行う法の解釈。行政府の憲法解釈は内閣が決定するが、内閣法制局の解釈が最大限尊重されている。