e震災被災地 街の基盤造り かさ上げ着々
- 2015.10.27
- 情勢/社会
公明新聞:2015年10月27日(火)付
進捗率平均50%
東日本大震災から4年7カ月余り。岩手、宮城、福島の東北3県沿岸部で進められている復興まちづくり事業の基盤となる「かさ上げ」工事の平均進捗率が概ね50%に達していることが、被災市町村への取材と復興庁などの資料から分かった。既に道路などの公共インフラが整い、新しい街として再出発を果たした地区もある。未曽有の大災害からの復活へ、被災地は文字通り正念場を迎えている。=東日本大震災取材班
十数メートルの盛り土 随所に
宮城・南三陸町
「あの一番高い盛り土が海抜20メートルほど。隣が10メートルぐらいかな」。重機の音がけたたましく鳴り響く中、工事関係者が声を張り上げて説明してくれた。
あの日の巨大津波で約800人が死亡・行方不明となり、町内全戸数の6割が全半壊した宮城県南三陸町。かさ上げ工事が急ピッチで進む中心市街地の志津川地区には、10トンダンプカー60万台分に相当する"盛り土の山々"が連なる。保存をめぐる論議が続く高さ12メートルの防災対策庁舎も、すっかり盛り土に取り囲まれた格好だ。
町の担当者は「かさ上げの進捗率は現時点で6割。概ね計画通りで、2018年度には工事全体が終わる」と話す。
町の計画によると、志津川市街地の復興後のイメージは、海と一体化した「回遊性と親水性のある街並み」。最大11メートルのかさ上げをしてバイオマス産業関連の施設や商業・観光施設、復興祈念公園などを整備する。このうち観光交流拠点となる敷地は、今月24日にかさ上げが完了。町は住民見学会を開き、2年がかりでダンプ4万台分の土砂を盛って築いた高さ10メートル、広さ2ヘクタールの造成地を披露した。
職住分離型の港町形成へ
宮城・女川町
今年3月、他の被災市町村に先駆けて「まちびらき宣言」を行った宮城県女川町。町の中心部は高さ約15メートルの津波に襲われ壊滅状態となったが、整備計画の設計を終えた箇所から順次着工していく「ファースト・トラック方式」の手法で、職住分離型の新しい街並みが形成されつつある。
例えば、3月に完成、再開した新しいJR女川駅舎は、以前より約200メートル内陸側に移動して、7メートルかさ上げされた敷地に建設。町は、この新駅より海側を災害危険区域に指定して居住制限をかけ、テナント型商店街(今年12月オープン予定)や水産関連施設などを整備。一方、駅より内陸側の高台には復興住宅や民家が密集する1000戸規模の住宅街をつくる。
これら一連の工事でかさ上げされる総面積は、東京ドームのグラウンド約170面に相当する217ヘクタール。町の担当者は「7月末現在で47%の盛り土が終わり、まずは順調」と話している。
地区間格差などの課題も
前例のない大規模造成
復興まちづくり事業でかさ上げ工事に使う3県の土砂の総量は、東京ドーム26杯分の3320万立方メートル。面積も優に1000ヘクタールを超え、東京ドームのグラウンド800面弱に相当。総事業費も3200億円に上る。無論、これほど大規模のかさ上げは前例がない。
震災4年7カ月を過ぎて、工事の進捗率は平均50%程度。既に全地区のかさ上げを完了させている宮城県山元町のようなところもあり、新しい街の基盤づくりは着々と進んでいると見ていいだろう。
ただ、自治体・地区間で進捗率に大きな開きがあるなど、課題は少なくない。
例えば、岩手県宮古市では、地区全域が浸水した田老地区のかさ上げ工事はほぼ完了したが、市全体としては50%に及ばない。同県陸前高田市でも、市中心部の高田地区が50%完了なのに対し、今泉地区はようやく工事に着手した段階だ。
同県大槌町では、面積ベースで9割方着工しているものの、実際の工事は遅れ気味で、一部災害公営住宅の完成が最大1年3カ月ほど延びることになった。
工事の進展を阻んでいる主な要因は人手と資材の不足。まちづくりが順調に進んでいるように見える女川町ですら職員不足に頭を痛めており、町の担当者は「今も職員の3分の2が国や他市町村からの派遣。復興事業の進展は、国などからの職員支援の継続にかかっている」と話す。
大役果たし解体本格化
岩手・陸前高田市の巨大ベルトコンベヤー
3県で最大規模のかさ上げ工事を進めている岩手県陸前高田市で、復興事業のシンボルとなっていた巨大ベルトコンベヤー(総延長約3キロ)の解体作業が本格化している。今年度中に高さ20メートルの橋げたや橋脚が撤去され、「希望のかけ橋」の呼び名で親しまれた吊り橋も来年秋までに姿を消す。
コンベヤーは昨年3月に稼働。山一つを切り崩して出た東京ドーム4杯分の土砂504万立方メートルを市街地まで搬出し続け、ダンプカーなら9年かかる作業を1年半に短縮した。