eコラム「北斗七星」

  • 2015.11.17
  • 情勢/社会

公明新聞:2015年11月16日(月)付



芸術を語るような柄ではないが、以前から"お目にかかりたい"と思っていた。過日、思いがけず、その機会を得た。それは秋田県立美術館のシンボル作品「秋田の行事」◆吹き抜けのゆったりとした空間に現れた、縦3メートル65センチ、横20メートル50センチの巨大壁画は、昭和10年代初期の秋田の暮らしを映し出す。厳しい雪国の暮らしや勇壮な夏の竿燈まつりが対照的に、生き生きと。油井や米俵、木材、酒樽などの主要産業も描かれていた◆画家・藤田嗣治の作。東京に生まれパリで修業を積んだ藤田は、秋田の資産家に懇請されて壁画制作を決意。着手までの半年間、来秋しては構想を練った。秋田の米蔵で絵筆を握り、驚くことに15日間で描き上げた。激動だった彼の生きざまは、先週末公開の映画「FOUJITA」でも、あらためて注目されている◆彼を壁画制作に突き動かしたものは、日本に帰国前、目にしたメキシコ壁画運動だった。これには政治経済に限らず、芸術でも一部特権階級が占有していた時代を転換し、「絵画を大衆のもの、国民全体の遺産にする意図が含まれていた」(「メキシコ壁画運動」加藤薫著)◆戦乱のあおりを受け、「秋田の行事」は完成後の30年間、日の目を見ずに保管されていた。完成から78年。今も、圧倒的な存在感で見る者の心に迫ってくる。(広)

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