e円借款の見直し 戦略性と費用対効果に力点を
- 2015.11.24
- 情勢/解説
公明新聞:2015年11月21日(土)付
政府は、新興国の社会基盤(インフラ)整備に使う有償資金協力(円借款)について、支援内容の見直しを行う。
円借款は、新興国の大規模なインフラ開発に必要な資金を、長期間かつ低金利で貸し付ける公的な融資制度だ。政府開発援助(ODA)の一つで、返済を求めない無償資金協力に比べ、日本の財政負担は小さい。安倍首相は、きょう21日にマレーシアで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合で見直し方針を表明するという。
見直しの背景の一つには今年9月、日本と中国によるインドネシアでの高速鉄道の受注競争で、先行していた日本が最終盤で競り負けた経緯があるといわれている。中国が、融資に対してインドネシア政府の返済保証を一切求めなかった点が明暗を分けたという。また、鉄道建設に加えて車両製造のための技術供与、沿線の不動産開発など同国の発展に必要な支援を一体的に提供した戦略性も見逃せない。
見直しの主な内容は、新興国との連携強化が活発化する国際情勢を踏まえ、新興国向け融資で義務化している相手政府による返済保証を改める。このほか、円借款の要請を受けてから実施までに必要な手続き期間を短縮し、新興国の為替リスクが低いドル建て借款を認める方向だ。
これらの見直しは、新興国の円借款に対する使い勝手を良くし、国際貢献におけるわが国の存在感を高めるだろう。また、政府が今年6月に発表した「日本再興戦略改訂版」で、「質の高いインフラ投資」で海外のインフラ需要を取り込むとした経済戦略を進めるものだ。
ただ、円借款の条件緩和がわが国の財政リスクを高める点には注意が必要だろう。政府保証とは、新興国自らが事業内容の効率性を監視する意識を持つことを期待するものだ。その新興国は世界経済を引っ張る成長を見せる半面、政情が不安定な地域が少なくないので、必ずしも事業が順調に進むとは限らない。
日本が投じた巨額の政府資金が回収不能な事態に陥るのを防ぐには、費用対効果の目利きに優れる民間企業との連携を強化しつつ、円借款事業を進めることが必要ではないか。