eコラム「北斗七星」
- 2015.12.01
- 情勢/社会
公明新聞:2015年12月1日(火)付
女優の原節子さんが亡くなった。山中貞雄監督の『河内山宗俊』や成瀬巳喜男監督の『めし』などの名作に出演。特に『晩春』『麦秋』『東京物語』の"紀子三部作"など小津安二郎監督の6作品では、優雅な深みのある演技で世界の映画ファンを魅了し、セツコ・ハラは「世界のオヅ」とともに映画史上、不滅の存在となっている◆今年の1月から3月、広島市映像文化ライブラリーで小津監督の特集上映が組まれ、現存する37作品の多くを堪能した。残念なのは、戦前の17作品が、ネガ、プリントともに残っておらず、失われたことだ。『東京物語』ですら原版ネガは焼失している◆映画を文化遺産として後世に残す事業を担う「東京国立近代美術館フィルムセンター」は、7万5942本(昨年度末)のフィルムを所蔵する。しかし、これは日本の劇映画の16%程度に留まる◆公明党は「文化芸術振興基本法」の制定(01年)を推進し、制作者のフィルム納入を義務付ける同事業を支援してきた。意義ある事業だ。映画は"時代"を映す。国民的遺産として引き継いでいきたい◆きょう12月1日は「映画の日」。戦前戦後を通し、清楚で気品溢れる女性像を演じ日本映画を輝かせた伝説の女優の長く静かなフェードアウトは、戦後70年の今年を締めくくる象徴的な出来事に思えてならない。(中)