e軽減税率識者はこう見る

  • 2016.01.25
  • 情勢/社会
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公明新聞:2016年1月23日(土)付



公明党が一貫して実現に取り組んできた軽減税率が2017年4月の消費税率10%への引き上げと同時に導入されます。軽減税率に対する識者の声と、公明党の闘いを紹介します。


課税の公平性を確保


望ましい消費に税率軽く。「給付つき」は不公平助長


東京大学名誉教授 神野直彦氏


―自民党と公明党が合意した軽減税率に対する評価は。

神野直彦名誉教授 消費税率が高くなるにつれて「課税の公平性」をどう確保するかが大きな課題となる。消費税の公平性とは、生活必需品など、その社会にとって望ましい消費の税率を軽くするということだ。今回の税制改正で、そのビジョンが示されたのは画期的な一歩といえる。

そういう観点からすると、消費税率10%への引き上げに合わせ、生きていくのに欠かせない飲食料品(酒類・外食を除く)に軽減税率を適用すると決めたのは妥当だと思う。インボイス(適格請求書)制度の導入など、税務行政の具体策を示したのも評価できる。

―低所得者対策として、所得税の対象者には減税し、免除者には現金を支給する「給付つき税額控除」の方が優れているという意見もあるが。

神野 所得税をベースにした給付つき税額控除には反対だ。その人の置かれている経済状況は、所得だけでは分からない。例えば、所得がゼロでも親の資産を食いつぶして悠々自適に暮らす人もいるし、会社員と自営業者では所得の把握率に差が生まれている。そんな状況にもかかわらず、所得の多少だけで給付対象を決めてしまうと、不公平を助長する可能性がある。

また、給付つき税額控除は、さまざまな状況に応じて行われている社会保障政策を削減し、現金給付に集約する考えとセットになっている。障がいや病気に応じてきめ細かに提供しているサービスを整理し、お金を渡すということになりかねず、賛同できない。

さらに利用者自らが申請の手続きをする必要があるため、周知にかなりのコストが掛かるのも問題だ。社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度で対応できるようになるのは、いつになるか分からない。

―公明党への要望は。

神野 公明党は、社会で恵まれない人や弱者、疎外されている人の立場から物事を見て、そういう人たちのための政策を行ってきた。軽減税率も同様の姿勢で提唱し、推進してきたと思う。今後も、よりよい社会を築くためのビジョンを描き、消費税だけでなく、所得税や相続税、財産税など税体系全体でバランスの取れた改革に取り組んでもらいたい。

じんの・なおひこ氏 東京大学教授、関西学院大学教授、政府の地方財政審議会会長などを歴任。専門は財政学。69歳。


国際標準の制度


低所得者対策や痛税感緩和など多くの利点備えた税制


立教大学教授 郭洋春氏

―世界各国で軽減税率が受け入れられている背景は。

郭洋春教授 軽減税率が、消費税の逆進性を和らげる低所得者対策に限らず、痛税感の緩和といった多くの利点を持っているからだ。

日本の消費税に相当する付加価値税を導入している国では、当たり前のように軽減税率(複数税率)が採用されている。まさに、"国際標準の制度"だ。導入国では国民からも理解が得られ定着している。

今、軽減税率を批判する日本国内の論調を見ていると、本質から外れ、矮小化された論点に終始していると思う。

―具体的には。

郭 「適用対象の線引きが難しい」との声が、いまだにある。だが、日本よりも複雑な軽減税率を導入するEU(欧州連合)では、混乱は起きていない。その適用対象も、各国の社会背景や文化、経済政策を反映したもので、十分に納得できる。

例えば、英国は、嗜好品としての「菓子」は標準税率だが、クッキーとケーキは例外的に軽減税率の対象である。紅茶文化の根付く英国では、クッキーとケーキが欠かせないからだ。一方、文化・芸術を重んじるフランスは、バレエや映画の入場料に軽減税率を適用している。

軽減税率は、その国がどのようなビジョンを持ち、経済政策を進めていくのかというメッセージを発信することもできる税制だ。使い方によっては産業振興や地域の活性化にも生かせる。これは、税負担に国民の理解を求める上で非常に重要である。

―「軽減税率で経理事務負担が煩雑になる」との批判について。

郭 ICT(情報通信技術)を駆使した取り組みで、負担を減らすことは可能だ。

日本は2021年4月からインボイス(適格請求書)を導入することになるが、既に導入しているEUでは、中小事業者でも電子申告ができるタブレット端末を配布し、効率化をめざしている。20年までにEUの全加盟国で納税を電子申告化する予定だ。電子化には初期費用が掛かるのは仕方ない。その一方で、従来の納税事務で掛かる印紙代や手間が省け、EU全体で年間5兆円の節約になると試算され、効率化の効果は大きい。

日本は、こうした事例を積極的に参考にしていくべきだ。

カク・ヤンチュン氏 立教大学大学院経済学研究科修了。研究分野は国際経済論、開発経済学。56歳。


公明党の闘い


国民の切実な願いを反映


制度設計で協議リード


公明党は、消費税の軽減税率導入に一貫して取り組んできました。

民主党政権下の2012年6月、野党だった公明党は自民、民主との3党協議に参加。消費税率を10%に引き上げ、その増収分すべてを社会保障の充実・安定に使う「社会保障と税の一体改革」で合意しました。その時の3党合意に低所得者対策の選択肢の一つとして軽減税率を盛り込ませたのは公明党です。「毎日の生活に必要な食料品だけでも消費税率を軽くしてほしい」という庶民の切実な願いに応えるため、くさびを打ち込んだのです。

12年12月、安倍政権が再出発すると、公明党は政府・与党内で具体化への道筋を付けることに全力投球。当初、「経理事務の負担が増える」といった理由で軽減税率導入への慎重論がありました。公明党は若手議員を中心に、現行の帳簿や請求書を基本とし、事務負担を極力抑えた新たな経理手法を考案。「軽減税率は導入可能」との認識を政府・与党内に広げました。

導入時期について公明党は、消費税率10%への引き上げと同時に導入するよう強く主張しました。13年12月に決定した14年度与党税制改正大綱に「(消費税率)10%時に導入する」と明記させ、14年12月の衆院選で大勝利。直後に決めた15年度大綱に「(消費税率を10%に引き上げる)17年度からの導入をめざして」と同時導入を目標として掲げました。与党内には異論もありましたが、安倍晋三首相が昨年10月に決断し、同時導入することになりました。

昨年末の対象品目をめぐる与党内の議論は最終盤まで白熱しました。「生鮮食品に限定すべきだ」との意見もありましたが、公明党は「対象品目を、より広くすべき」と粘り強く交渉。12月に決定した16年度大綱で、酒類と外食を除く飲食料品全般と定期購読の新聞(週2回以上発行)の税率を8%に軽減することに合意しました。

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