e農作物の安全性に国際基準を
- 2016.02.05
- 情勢/社会
公明新聞:2016年2月5日(金)付
松本農園(熊本県)
2020年に開催される東京五輪・パラリンピックに向けて、安全性の高い日本産の農作物の調達・提供をめざす取り組みが動き始めた。五輪など国際的イベントでは、選手らに安全な食を提供するため、素材となる農作物の選別基準が求められる。どういう基準になるのか。農作物の国際的な安全認証制度を導入している日本の農家の取り組みを追った。
グローバルGAP(農業生産工程管理)の導入で世界に評価される野菜作り
熊本県益城町の一画、約50ヘクタールの広大な土地で、ニンジンやゴボウ、里芋などを栽培・出荷している有限会社松本農園(松本篤代表取締役)。ITを駆使し、農作物の生産履歴(トレーサビリティー)の管理を強化している例として、国内外の企業から注目を集めている。
同農園で導入しているのが、農産物の国際認証制度「グローバルGAP(ギャップ)(脚注)」。GAP(ギャップ)は、Good Agricultural Practice(グッド・アグリカルチャル・プラクティス)の略で、「農業生産工程管理」を意味する。
同農園では2005年からこの制度を導入し、認証されている7品目は国内で最大規模だという。
認証制度のチェック項目は約250に上る。農作物の安全性はもちろん、農薬による水質汚染などを防ぐ方法や生産者の労働環境など、生産の各工程で幅広いリスク管理が求められる。
例えば、同農園では畑を耕作する際、いつ、どの畑を、どれくらいの時間、誰が、どの機械を使い耕したのかを、タブレットなどの端末機器で全て記録。こうした記録はシステムで一括管理されている。松本農園の取り組みは世界でも評価され、12年に第1回グローバルGAPアワードを受賞した。
こうした管理システムを生み出したのは、株式会社ファーム・アライアンス・マネジメントの松本武代表取締役だ。松本農園で働いた経験を生かし、現在は、グローバルGAPの認証取得に対応した「農業生産情報管理システム」を提供し、制度普及に取り組んでいる。
株式会社ファーム・アライアンス・マネジメントの松本代表取締役は「日本の農家は海外で勝負できないのではなく、勝負する方法を持っていないだけ。日本の農作物は品質も高く、見た目もいい。グローバルGAPの本質を理解することで、海外で勝負できる体制を整えることにつながる」と語った。
国内認証取得数は200件程度。調達・提供に課題も
日本では現在、国内独自の認証制度である「JGAP」などが普及している一方、12年のロンドン五輪では「グローバルGAP」が調達基準として採用されるなど、国際的な安全基準に沿った指標の導入が求められる。グローバルGAPの認証を取得するには、認証審査会社への申請が必要となる。
東京五輪では、農産物をどのように確保するか決まっていないが、グローバルGAPを取得している国内の認証取得数は200件に満たず(14年6月末時点)、選手村で必要な農作物を国内産で確保することは難しいといわれている。世界における認証取得数は、113カ国、約14万件(同)まで広がっている。
こうした事態を受け、中央畜産会、大日本水産会、緑の循環認証会議など第1次産業の業界7団体が先月21日、「持続可能な日本産農林水産物の活用推進協議会」を設立した。東京五輪で海外の選手らに安全で質の高い日本の農作物を提供することなどが目的だ。
15年の日本の農林水産物・食品の輸出額は7452億円に上り、前年比21.8%増加した。これは過去最高値(6117億円)を更新した昨年を上回る数字だ。五輪を契機に、農作物のさらなる競争力強化につなげられるか、農家も国も判断が急がれている。
グローバルGAP
ヨーロッパの大手スーパーなどが独自に策定していた食品安全規格を標準化するため、民間団体の欧州小売業組合(EUREP)が2000年にEUREPGAPを設立。その後、07年にGLOBALGAPに改称された。農産物生産における安全管理を向上させることにより、円滑な農産物取引環境の構築を図るとともに、農産物事故の低減をもたらすことを目的としている。