eWi-Fi 防災拠点への普及急げ
- 2016.02.19
- 情勢/テクノロジー
公明新聞:2016年2月19日(金)付
徳島県
3月11日で発災から5年を迎える東日本大震災。この災害で浮き彫りになった課題の一つが、安否、交通、給水などの情報を得たり、連絡を取り合ったりするための通信手段の確保だった。大規模災害時には無線LAN「Wi-Fi」が有効とされるが、全国の防災拠点への設置は遅れている。
「費用対効果が低い」 自治体は消極的
総務省の研究会が昨年5月に取りまとめた報告書によると、役場などの庁舎施設が9%、避難所1%、避難場所0.1%と、ほとんどWi-Fiが整備されていない。全国の庁舎施設は約9000カ所、避難場所・避難所は約8万8000カ所あることから、それぞれの普及施設は900カ所弱、1000カ所程度にとどまる。
外国人観光客らのニーズ(需要)が高く、経済効果が見込める施設は、民間事業者によるWi-Fi整備が望めるが、防災拠点のように"いざという時"への備えは自治体主導のはずだ。しかし、「コスト(費用)に見合う効果が期待できない」と後ろ向きな自治体が多い。
そこで政府は、避難所などへのWi-Fi整備を進めるため、自治体などに対し費用の一部を補助する事業を実施中だ。2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、外国人観光客数や費用対効果を考慮して絞り込んだ「重点整備箇所」への設置完了をめざす。該当する避難場所・避難所は1万3000カ所。避難所は公立中学校区当たり1カ所が目安、庁舎施設は全てが重点整備箇所だ。
107カ所に重点整備
南海トラフ地震に備え
Wi-Fi普及が全国的に低調な中、徳島県は14年度、国の補助事業も活用し、防災拠点107カ所(避難場所・避難所88カ所、庁舎施設19カ所)に誰でも無料で使えるWi-Fiを整備。さらに15年度中に十数カ所増やす予定だ。いずれも「南海トラフ巨大地震への備え」(同県地域振興課)として力を入れてきた。
徳島県がWi-Fi先進地になったもう一つの理由は、高速・大容量のデータ通信が可能なブロードバンド環境が県内全域に張り巡らされていること。同県ではかつて、地上デジタル放送への移行で、約7割の世帯が近畿地方など県外の放送を視聴できなくなる可能性があった。そこで02年度から9年間かけて、全市町村にケーブルテレビ(CATV)網を整備。この全国屈指のインフラ環境がWi-Fi普及の土台になっている。
Wi―Fiが整備済みの施設では、平時、災害時にかかわらず利用可能。携帯電話などでWi-Fi接続をオンにして画面に表示されたSSID(アクセスポイントの識別名)から「Tokushima_WiFi」を選べば、利用できる。
平時は安全上の観点から、利用時間30分ごとにメールアドレスを入力することになっているが、災害時は入力も時間制限もなく使うことができる。同課職員は「日ごろからWi-Fiに親しむ中で、災害時の円滑な情報収集につなげてほしい」と語る。
Wi-Fiの整備促進については、公明党の山口那津男代表も1月の参院本会議の代表質問で、「民間施設に比べて整備が遅れている公共施設、防災拠点への重点整備に向け、積極的な支援が必要」と訴えている。
電話よりネット、3.11で有効
東日本大震災の発災直後、家族や友人の安否を確認しようと、固定電話と携帯電話による音声通話が集中した。NTTドコモの発表では、携帯電話の音声通信量が一時、通常の50~60倍に上った。110番などの緊急の通話を確保するため、同社は最大で90%の通信を規制。つまり、電話を10回かけて1回つながる程度だった。固定電話でも同レベルの規制が行われた。
一方、メールなど携帯電話によるインターネット利用は、通信規制が行われなかったり、規制を実施した事業者でも、割合が最大30%かつ一時的なものだった。その理由は、データを小包(パケット)のように分割して送る仕組み(パケット通信)を採用しているため、一度に大量のデータを送る必要がある音声通話とは異なり、極端に通信量が増えることもないからだ。そこで緊急時に強い連絡手段として注目された。
Wi-Fi
ケーブルを使わない無線通信を利用したインターネット接続サービスの一つ。基地局(アクセスポイント=AP)から数十メートルと電波の届く範囲は狭いが、高速かつ大容量のデータ通信を行えるのが特徴。