eコラム「北斗七星」
- 2016.03.22
- 情勢/社会
公明新聞:2016年3月22日(火)付
一人の人間の中にいる細菌の数は? 正答は「100兆個」。細菌と聞けば、"悪玉"を想起しがちなだけに、まさに「びっくりぽん」の数だろう。ただ安心してほしい。悪玉は事実誤認である◆「細菌による害は、恩恵に比べれば微々たるもの」。かつて、脳研究者の池谷裕二氏が『エコノミスト』(毎日新聞出版)に寄せた一文だ。例えば、皮膚や気道には体細胞の10倍以上の細菌が棲んでいて、消化や免疫を助ける有益菌が多い。片や自然界ではどうだろう◆飲料容器のペットボトル。原料は、極めて分解が困難な合成樹脂・ポリエチレンテレフタレート(PET)だ。ところが、最近、PETを分解し水と炭酸ガスに変えてしまう細菌が発見された。堺市のごみ捨て場で採取されたというから、驚く◆「サカイエンシス」と名付けられたこの細菌、京都工芸繊維大と慶應義塾大らの研究チームが10年以上かけ、微生物の中から特定した。細菌が"飢餓状態"になるとPETを分解し出すという。米科学誌・サイエンスに詳細な仕組みが載っている◆土壌中の細菌から寄生虫病の治療に役立つ物質を発見し、昨年、ノーベル賞に輝いたのは大村智氏だが、同じ菌が、がん治療にも応用可能と期待されている。研究者の手で明らかになる事実。いまだに誤認を助長させる手法が通用するようでは、行く末は暗い。(田)