e平和安全法制が施行 憲法9条の枠内で安全守る
- 2016.03.29
- 情勢/解説
公明新聞:2016年3月29日(火)付
北側一雄副代表に聞く
隙間なく国民を守る安全保障体制を整備し、国際社会の安全にも貢献する「平和安全法制」の関連法が、きょう29日施行となりました。法制の意義や今後の取り組みについて、北側一雄副代表に聞きました。
法整備の必要性と意義
厳しさを増す安全保障環境に対応
隙間のない日本防衛の体制を構築
―法制備の必要性について聞かせてください。
北側一雄副代表 ここ15年余りで、日本を取り巻く安全保障環境や国際情勢は大きく変化してきました。
例えば、北朝鮮の弾道ミサイル関連技術は飛躍的に向上しています。現在、日本を射程に収める「ノドン」ミサイルを数百発配備し、射程1万キロメートルに及ぶミサイルの発射実験にも成功しており、狙った目標にミサイルを正確に着弾させる技術も進歩しています。
さらに北朝鮮は今年に入り、通算4度目となる核実験や、長距離弾道ミサイルの発射を強行するなど威圧的な姿勢を崩しておらず、核弾頭の小型化を実現させている可能性も排除できません。
一方、中国は海洋進出を強めています。また、欧米や中東などで非人道的な国際テロも相次いでいることは、ご承知の通りです。
こうした状況を踏まえると、国民の生命と安全を守るため日米防衛協力の実効性を向上させるとともに、隙間のない防衛体制を構築して抑止力を高める必要があります。それによって、外部からの攻撃を未然に防ぐ体制を整えようとするものです。
一方、グローバル化が進む中で、日本の繁栄と安全には国際社会の平和と安定が欠かせません。国際社会の平和と安定に貢献することで、日本の平和は一層強固なものとなります。
ただし、法整備はあくまでも備えです。大前提として、抑止力を整えた上で他国との対話を促進することで、紛争の平和的な解決をめざす平和外交を進めることが重要になります。これは公明党の一貫した訴えであり、政府も同じ立場です。
「専守防衛」堅持した公明
政府見解の論理の基本を維持
国際平和支援は「例外なく事前承認」
―日本の安全保障政策の基本的な考え方は変化したのでしょうか。
北側 公明党は平和安全法制の整備に当たり、海外での武力行使を禁じた憲法9条の解釈を堅持するよう一貫して訴えてきました。専守防衛、非核三原則、軍事大国にならないという戦後日本の安全保障の基本理念は全く変わりません。
議論の前提として、憲法には「自衛の措置」(武力行使)に関する直接的な記述はありません。憲法9条の下で武力行使がどこまで許されるかの基準は、これまでもっぱら政府と国会の議論の中で確立されてきました。
その根幹は、「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」を定めた憲法9条と、前文の平和的生存権、13条の幸福追求権を合わせて読むことで、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態」では、自衛の措置が認められるというものです。
冒頭で述べたように安保環境が厳しさを増す中、政府見解の根幹部分と論理的な整合性を保ちつつ、憲法9条の下で自衛の措置がどこまで許されるかを明らかにしたのが新3要件です。
これにより、他国防衛を認めず、専守防衛を堅持するための厳格な歯止めがかけられました。新3要件は従来の政府の基本的な論理を踏まえたものであり、内閣法制局も憲法に適合していると明確に答弁しています。
新3要件は法文上にも全て明記され、これに合致しなければ自衛の措置は発動できないため、恣意的な運用は不可能です。
―具体的には、どのような事態が新3要件に合致するのでしょうか。
北側 例えば、わが国防衛のために日本近隣の公海上で警戒監視活動をしている米艦船に対し、外部から武力攻撃があった場合です。従来の解釈では、日本への直接の武力攻撃がない限り自衛の措置は取れませんでした。
しかし、日本防衛のために日本近海で活動している米艦への攻撃が、日本に対する武力攻撃の可能性を著しく高める場合には、こうした事態に対処する必要があります。そこで、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力行使に限り自衛の措置を容認しました。あくまで自国防衛の範囲内であり、もっぱら他国防衛を目的とする集団的自衛権は今後も認められません。
自衛隊海外派遣に厳格な歯止め
―自衛隊の海外派遣に対して公明党は、どのような歯止めをかけましたか。
北側 実力組織である自衛隊の海外派遣に当たっては、明確な要件や手続きが必要だと訴えました。公明党は、海外派遣の3原則を掲げて法律に盛り込むなど、何重もの厳格な歯止めをかけました。
政府はこれまで、2001年の9.11米国同時多発テロを契機としたテロ対策特別措置法(特措法=時限立法)など、国際社会の平和と安定のために活動する外国軍隊への後方支援を可能とする特措法を、その都度、制定してきました。後方支援とは外国軍隊に対して輸送や補給などで協力することであり、武力行使とは異なります。自衛隊は洋上給油や紛争後の人道復興支援などに限って貢献し、国際社会から高い評価を受けてきました。
平和安全法制では、こうした自衛隊の後方支援を規定する一般法(恒久法)として、国際平和支援法を定めました。一般法にしたことで、日本ができる支援内容をあらかじめ国際社会に示すことができ、自衛隊の訓練や準備も進められます。
国際平和支援法に基づく自衛隊の後方支援に当たっては、公明党の強い主張で国連決議があることを絶対条件とし、例外なき国会の事前承認を必須としました。さらに、「現に戦闘行為が行われている現場」では実施しないという大前提の下、活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと見込まれる場所をあらかじめ指定して自衛隊を派遣します。
加えて、近くで戦闘行為が行われると予測される場合などには部隊長が活動を一時休止し、実施区域で後方支援をすることが困難になれば防衛相が活動の中断を命令するなど、自衛隊が戦闘に巻き込まれないための仕組みを整えました。自衛隊員の安全確保の仕組みは、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態に際し、米軍などへの後方支援を行う「重要影響事態法」でも同様です。
無責任な「戦争法」批判
安保論議に向き合わない言い掛かり
「徴兵制」も政府が明確に否定
―一部野党は「戦争法」「徴兵制に道」と批判しています。
北側 国際紛争を武力で解決しようとするのが戦争です。それは不戦条約や国連憲章で禁止され、憲法9条でも明記されています。
今回の法整備の本質は、他国からの武力攻撃を抑止することを目的とする"戦争防止"法です。自衛隊が武力行使を許されるのは、どこまでも国民に日本が武力攻撃を受けたと同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな場合に限られます。日本を海外で戦争できる国にする「戦争法」との批判は、安全保障環境の変化にきちんと向き合おうとしておらず、無責任で根拠のない言い掛かりに過ぎません。
平和安全法制の整備に対しては、EU(欧州連合)やASEAN(東南アジア諸国連合)諸国をはじめ、多くの国々から賛同の声が寄せられています。平和安全法制は戦争を防止して地域の安全をもたらすものであると評価されていることを雄弁に物語っています。
一方、徴兵制について政府はこれまで、国会答弁などを通し、憲法18条の「その意に反する苦役に服させられない」との規定や、憲法13条が定める個人の尊重の原則に反するとの理由で「憲法の下では許されない」と断言してきました。
安倍晋三首相も「明らかな憲法違反。たとえ首相や政権が代わっても徴兵制の導入はあり得ない」と繰り返し答弁している通りで、これらを理解しようとしていない決め付けに過ぎません。
―「憲法違反」との指摘もあります。
北側 6割を超える憲法学者が自衛隊の存在そのものを"違憲"と見ているという報道もあります。そうした憲法学者に自衛隊の役割を明記する平和安全法制への認識を聞けば、どのような結論になるかは容易に想像できます。
専門家の意見は謙虚に受け止めないといけませんが、政治は現実に国民の生命を守る責務があります。国民の生命と平和な暮らしが脅かされ、幸福追求の権利が根底から覆されようとする明白な危険があるときに、政府が何もしないことこそ、憲法の精神に合致しないと考えます。
自衛隊の武力行使は自国防衛のための「自衛の措置」に限られており、それを超えて「他国防衛だけを目的とした集団的自衛権の行使は許されない」という政府の憲法解釈の論理の根幹は平和安全法制でも維持されています。
―公明党は平和安全法制の成立後、韓国、中国を続けざまに訪問しました。
北側 山口那津男代表をはじめとする党訪韓・訪中団は平和安全法制の関連法が成立した直後の昨年10月、韓国の朴槿恵大統領、中国の習近平国家主席と相次いで会談しました。両首脳には安倍首相の親書を手渡し、翌月に韓国で開催された日中韓首脳会談は成功裏に終わるなど、日本と両国の関係は改善の方向に大きくかじを切りました。
一方、平和安全法制の整備や日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定により、米国との緊密な情報連絡や協力がスムーズになったと指摘されています。こうした効果は、2月の北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射の際にも発揮されました。国民の生命と安全を守る体制が着実に向上しているものと考えています。
―今後に向けての取り組みは。
北側 引き続き、国民の皆さまへの丁寧な説明を続けてまいりますし、政府にもその努力を求めていきます。
併せて、平和安全法制の運用が適切であるかどうか、しっかりチェックしていきます。その点において公明党は与党と、日本を元気にする会など野党3党との修正協議をリードし、自衛隊を派遣する際の国会関与の強化などについて合意に導きました。合意内容の実現に向けて、しっかり取り組んでまいります。