e薬剤耐性菌対策 抗生物質の乱用防止をまず

  • 2016.04.12
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年4月12日(火)付



細菌や寄生虫などによる感染症の治療に欠かせない抗生物質。しかし今、抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が、急激に増加している。

下痢や腹痛の原因となる大腸菌や、食中毒を引き起こす黄色ブドウ球菌といった、命に関わる危険性が低いと考えられている細菌でも、抗生物質に対して抵抗力を持ってしまうと、感染した人の治療が困難になる。

国内でも、病院や介護施設などで薬剤耐性菌が広まり、免疫力の落ちたお年寄りや患者などが集団感染し、死者が出る事例もたびたび発生している。薬剤耐性菌の拡大を早急に防ぐ必要があり、政府は今月、そのための行動計画を初めて策定した。

薬剤耐性菌は世界中で猛威を振るっている。厚生労働省によると、その感染による死者は世界中で年間約70万人(2013年時点)に上るが、50年には、がんによる死者を上回る1000万人に達するとの予測もあるという。

事態を深刻視した世界保健機関(WHO)は昨年5月、2年以内に薬剤耐性菌対策の行動計画をまとめるよう、加盟国に求めていた。

日本政府が策定した行動計画では、2020年までに抗生物質の使用量を、13年比で3分の2まで減らすことを目標に掲げた。抗生物質が大量に使われ続けると、細菌はやがてそれに順応し、耐性を持ってしまうからだ。

一般社団法人・くすりの適正使用協議会が、30~59歳までの母親500人を対象に実施した調査によると、約4割の母親が、自分の判断で子どもに薬を飲ませる量を決めたことがあるという。このうち抗生物質は「どんな病にも効く万能薬」であるとの誤解が根強く、効果のないウイルスによる風邪の症状にも、抗生物質を服用させてしまうケースが少なくない。まず抗生物質の適正使用を促すガイドライン作りを急ぐ必要がある。

また、畜産で、より少ない餌で効率よく牛や豚などが育つように抗生物質を使うことがあり、この過程でも薬剤耐性菌が発生する。こうして育てられた牛や豚の肉を食べることで感染することもある。WHOが推進する「ヒトと動物の垣根を越えた取り組み」を進めることも重要だ。

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