e熊本地震 守ってほしい 子どもの心
- 2016.04.22
- 情勢/解説
公明新聞:2016年4月22日(金)付
NPO法人「子どもグリーフサポートステーション」アドバイザー 髙橋聡美さんに聞く
自然災害や事件・事故で子どもたちが強い恐怖や衝撃を受けた際、その後の成長や発達に悪影響を及ぼす可能性があるといわれている。熊本地震に直面した子どもの心のケアにどう取り組むべきか。東日本大震災の被災地で震災遺児・遺族の支援を通して、子どもの心のケアに取り組んできたNPO法人「子どもグリーフサポートステーション」アドバイザー、髙橋聡美さんに話を聞いた。
"遊び"を通してケア
求められる居場所づくり
熊本地震がこれまでの災害と違うのは、震源地が移動し、余震が長く続いていることです。そして多くの九州の人が遠足や家族旅行で訪れた熊本城や阿蘇山など、思い出深い象徴的な場所も姿が変わってしまいました。
これは、子どもから大人まで持続的なストレスと「大切な場所」が損なわれた喪失感にさらされていることを意味します。とりわけ、子どもは震災で受けた"心の傷"を言葉で表現することが難しく、心のバランスを失いかねません。これまで熊本、大分以外の九州各県からも、子どもの心のケアについて連絡を受けました。直接的な被害があった地域でなくても、心に傷を負った子どもが広範囲にいることが推測されます。
震災時の反応
災害などで心に強烈なショックを受けた子どもは、急に親に甘えたり、夜泣きやおねしょなどの"赤ちゃん返り"といった退行現象を見せることがあります。こうした反応は、一人一人異なり、子どもにとって不安の表現です。しかし、子どもには、自分で自分の心を立て直そうとする力があるのです。
例えば、阪神・淡路大震災を経験した子どもが「地震ごっこ」をして遊んだり、東日本大震災後、「津波ごっこ」をしていたことが報告されています。大人の目には不謹慎と映るかもしれませんが、"遊び"を通して子どもは、恐怖心と闘い、克服しようとしているのです。
遊ぶことで子どもの心は回復していきます。そこで必要な要素は、「壊すもの」と「直すもの」を用意してあげること。例えば「街を壊す怪獣のおもちゃ」と「街を直すブルドーザー」などです。震災で街や家が「壊された」という経験に向き合うため、自分で「壊す」「直す」といった物語を演じ、子どもが「主導権」を取り戻すことが心のケアになるのです。
このほか、必要なのは「子どもが子どもでいられる」居場所や環境を確保すること。親を心配させないよう、子どもが自分の意思に反してまで頑張るような状況は好ましくありません。とはいえ、子どもを弱者と決めつけ「世話をされるだけの存在」にしてしまうと"自尊心"を損ない、気力を奪いかねません。
保護者への支援も
避難所では、親が周囲に気を使うことが多いと思います。親子が「安心できる場」を確保することを望みたい。親の不安は、子どもの心に影響を与えます。保護者に対する心身のサポートが大切です。なお、アルコール飲料は、親の問題行動を引き起こすこともあるので「救援物資」としては控えましょう。
また、避難所では、子どもに対するサポートは行き届きやすいのですが、今回の震災では、車中泊避難が少なくありません。安全に遊べる場所を用意すべきだと思います。
子どもの遊び相手は、親を始め「被災者」でもあります。大人たちは、避難生活で精いっぱい。今後は、ボランティアなど「外の力」が頼りになるでしょう。ただ、子ども支援は"普段の遊び"を長く続けるほうが効果的。できれば同じ人が同じ子どもをサポートし続けてほしい。支援者が変わると子どもに新たな喪失感を与えかねないからです。
社会全体で対策を
東日本大震災では、親との死別や保護者の失業などで、所得格差や貧困が広がりました。震災遺児支援を行う公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」の調査によると「低所得世帯ほど自殺願望を持ったことがある子どもの割合が高い」といったデータが明らかになりました。震災に伴う経済的ダメージが家庭不和の原因となったり、子どもの自尊心を傷つけるのではないかと思われます。
保護者の経済状況を悪化させないよう支援をすることも、子どものメンタルヘルスケア(心の健康対策)の大事な要素です。子どもの心のケアは家庭の問題ではなく、社会を挙げて取り組むべき問題なのです。
たかはし・さとみ
NPO法人「子どもグリーフサポートステーション」アドバイザー。防衛医科大学校医学教育部教授。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。鹿児島県出身。