e熊本地震 災害時支援の現場を追う

  • 2016.06.09
  • 生活/生活情報

公明新聞:2016年6月9日(木)付



ペットは生きる希望
動物病院で同伴避難受け入れ
熊本市



熊本地震では、ペット連れの避難者が避難所に入れずに行き場をなくすなどの問題が生じた。そうした中で、ペット同伴の避難所として施設を開放した動物病院があった一方、熊本市動物愛護センターは、ペットの支援拠点として機能した。全国に先駆けて動物愛護の取り組みを推進してきた熊本市の現場を追った。


市愛護センター 拠点としての役割果たす

「前の避難所ではペット同伴を拒否され、軒下で過ごした。私にとっては家族なのに」。熊本市東区の避難所で犬と一緒に避難している女性は、表情を曇らせた。ペットの鳴き声や臭いが原因で起きた避難所のトラブルも少なくなかった。

トラブルを避けるため、車中泊を選択するペット連れも多かった。同市南区在住の女性は「『人間が優先』ということもよく分かるので、肩身の狭い思いをした飼い主は多いはず」と複雑な心境を吐露する。

同市中央区の竜之介動物病院(徳田竜之介院長)では、発災直後から約3週間、ペット同伴の避難所として施設の一部を開放し、最大で約230人の避難者を受け入れた。徳田院長は2011年の東日本大震災で、ペットと飼い主が離れ離れになった状況を目の当たりにし、同伴避難の重要性を痛感。13年9月に病院の耐震工事を行い、自家発電や給水タンクを準備した。徳田院長は「災害で本当に人を助けるなら、ペットも一緒に助けないといけない。飼い主にとってペットは生きる希望だ」と強調する。

多くのペットが避難した同病院の状況をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で発信したところ、ドッグフードなどの支援物資が全国から届けられた。徳田院長は、同病院での避難者は雰囲気が明るく、元気だと感じたという。「動物は人の心を動かす。震災によって人間と動物の絆が証明されたと考える」と語った。また「『ペットは家族の一員』から『ペットは社会の一員』という認識の転換が必要であり、今回の経験を生かして、災害時の動物に対する支援のモデルケースをつくっていきたい」と話した。


公明市議、現場での対策探る

一方で、行政の対応はどうだったのか。公明党熊本市議団(鈴木弘会長)は1日、市動物愛護センター(村上睦子所長)を訪れた。同センターは震災後、ペットの支援拠点としての役割を果たし、犬や猫の保護情報や迷子の問い合わせが688件寄せられ、対応(5月30日時点)。さらに、職員が避難所を調査して回り、全国から届いた支援物資をペット連れの被災者に配布するなどの支援を行った。

同センターが以前から進めている「犬猫の殺処分ゼロ」の取り組みは、災害時でも生かされた。震災後、飼い主とはぐれた犬が87頭収容されたが、そのうち6割を超す57頭は飼い主のもとに返された。村上所長は「いざというときに、ここに連絡すればいいと市民に周知されていたので、災害時でも迅速に役割を果たすことができた」と語る。


避難所運営には課題も

一方、課題も残った。同市は、避難所でペットを受け入れる際の注意点などをまとめたマニュアルを今年3月に作成していたが、実際の避難所運営には生かされないケースが目立った。村上所長は「行政も混乱して、情報の伝達がうまくいかなかった」と悔しさをにじませた。今後、避難所から仮設住宅やみなし仮設住宅へと移り、ペットの一時預かりの要望が増えることなども懸念されている。

視察を終えた鈴木会長は、「避難者一人一人に寄り添う相談員を配置して、ペット連れ世帯の要望を聞いていきたい」と語った。

ペット連れ避難者の"声なき声"を拾い、今後の復興支援と災害対策に生かす取り組みが急がれている。

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