e重要性高まる「市民後見人」

  • 2016.07.15
  • 情勢/社会

公明新聞:2016年7月15日(金)付



成年後見 需要増加に対応
地域で担い手を育成
東京・ 品川区



認知症や独居の高齢者が増加する中、判断能力が不十分な人を支える成年後見制度の担い手の育成が課題となっている。そうした中で今後、活躍が期待されるのが一般市民による後見人の「市民後見人」だ。市民の力を生かしながら、全国に先駆けて後見活動を進めてきた東京都品川区での取り組みを追った。

市民後見人の古賀忠壹さん(72)は月に一度、品川区内のグループホームで生活する女性(88)のもとを訪れる。

「元気でしたか」。優しく声を掛けると、女性は、にこやかな表情で応じるという。女性の顔色や生活状況に異変がないか確認し、施設への費用の支払いも行う。一見、親子のようなやりとりでも、二人に血縁関係はない。

女性は7年前、都営団地で一人暮らしをしていた。夫とは死別。認知症が進行し、リモコン操作さえ、できなくなっていた。担当のケアマネジャーが女性のきょうだいに相談したところ、成年後見制度を利用したいとの申し出があった。そして女性の担当になったのが古賀さんだった。

「気温が高ければ気になって電話したり、近くまで行ったら立ち寄ったり。家族のような存在だ」。施設の入所手続きも、女性が暮らしていけるようにと、古賀さんが進めた。「最近は落ち着いて生活を送れるようになった」と手応えも感じている。


◆協働の推進体制

古賀さんのような市民後見人は、自治体などが開く養成研修を受け、家庭裁判所の選任を受ければ活動できる。現在、後見人になるのは親族や弁護士など専門職が中心だが、成年後見の需要の増加とともに市民後見人養成の取り組みが広がりつつあり、2015年は全国で224人が選任された。

市民後見人の最大の強みは、地域で時間をかけて、きめ細かな支援ができることだ。品川区では、こうした見守りを中心とした市民後見人の役割に着目し、06年、区社会福祉協議会とNPO法人「市民後見人の会」の協働で養成講座をスタートさせた。

同会の会員は現在、60、70代を中心に約80人。古賀さんが理事長を務める。法定後見もこれまでに32件を受任した。区社協が市民後見人の監督人となり、相談や協力体制も整えて後見活動を支えている。

ただ、育成・活用の体制を整えても、市民後見人を増やすには課題も多い。活動時間の確保や、被後見人が債務を抱えているなど困難な事案もあるからだ。「後見人の報酬を聞かれることもあるが、報酬額は家裁が決める。高齢社会を見据えた社会貢献であり、ボランティアの活動だ」と古賀さんは指摘する。

区社協が関わる後見活動は現在、380件程度だが、同区内にある潜在的な需要はその10倍以上とみられる。区社協品川成年後見センターの小佐波幹雄係長は「あと数年で団塊の世代が75歳以上になり、制度利用者が爆発的に増える"後見爆発"も予想される」と語る。認知症高齢者の増加に伴い、市民後見人の重要性はますます高まっている。


◆利用促進法が成立

ところが、現在の成年後見制度は、利用する上で多くの制約があり、親族や専門職が選任されるケースを含めても、制度の利用は全国で約19万人にとどまっている(15年末現在)。制度を普及させるため、今年4月、「成年後見制度利用促進法」が成立した。公明党が主導して実現した議員立法だ。

今後、内閣府に首相を会長とした成年後見制度利用促進会議と有識者委員会が設置され、制度の利用普及に向けた基本計画が策定される。また、制限されている被後見人の権利の見直しや後見人の不正防止策といった制度の改善、後見人を育成するための措置も講じられる。こうした動きの中で、市民後見人の支援体制の整備も急がれる。


各自治体で体制づくりを


公明党成年後見制度促進プロジェクトチーム 大口善徳衆院議員

成年後見制度は高齢者や障がい者を支える仕組みとして、介護保険制度や高齢者、障がい者福祉制度と車の両輪をなすものだ。地域包括ケアの視点でも欠かせない。

弁護士や司法書士、社会福祉士であれば法律や福祉の専門知識を生かして、市民後見人であれば本人に寄り添った形で後見活動ができる。一人をチームで支えている地域もある。利用者の意思を最大限に尊重し、その人にマッチした体制を地域で整えられることが理想だ。

後見体制の基盤づくり、人材づくりは各自治体で進めないといけない。審議会などを設置し、利用促進に向けた計画や施策づくりを、公明党としても地方議員と連携して推進していきたい。


認知症や知的・精神障がいなどで判断能力が不十分な人の財産管理や介護保険契約などを、代理権や同意権、取消権が付与された成年後見人等が行う仕組み。家庭裁判所が本人の判断能力の程度に応じて成年後見人、補佐人、補助人を選任する「法定後見」と、あらかじめ本人が任意後見人を選ぶ「任意後見」がある。

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