e南相馬の避難解除 故郷復活への新たな一歩に
- 2016.07.19
- 生活/生活情報
公明新聞:2016年7月18日(月)付
東京電力福島第1原発事故で福島県南相馬市の一部に出されていた避難指示が解除された。自治体としては5例目の解除だが、対象となる住民は1万人を超え、これまでで最も多い。
無論、これで対象者全員がすぐにも帰還するわけではない。むしろ放射線や今後の生活への不安などから、帰還をためらっている人の方が多いと聞く。
だがそれでも、解除となった意義は小さくないはずだ。
戻る人も戻らぬ人も、それぞれに故郷への思いを新たにして、自身と家族の再出発を期してほしいと願う。市も、解除を故郷再生に向けた大きな節目と捉え、勇躍、再びの前進を開始してもらいたい。
それにも増して覚悟を新たにすべきは国と東電だろう。「解除は"終わり"でなく"始まり"である」(高木陽介経産副大臣・原子力災害現地対策本部長=公明党)ことを肝に銘じ、一層の支援強化に努める必要がある。
解除となった12日、南相馬市内を歩いた本紙記者によると、解除を喜ぶ声は控え目に見ても2割にも達せず、戸惑いや不安を示す住民がほとんどだったという。
事実、市が今年春に実施した市民意識調査でも、解除されても「戻らない」と答えた人が3割を占め、「分からない」も2割に上った。
最大の要因は、除染の遅れだ。なるほど、政府が説明するように住宅周りの除染は終了し、放射線量は国の基準内にある。だが、道路や農地、森林の除染は進んでおらず、数値の高い場所が今も残る。
これでは子どものいる家庭などが帰還をためらうのは当然だろう。国は「安全」を言う以上に「安心」の確保に気を配り、"残された除染"をもっと精力的に進めるべきだ。
それにも増して忘れてならないのは、"失われた5年"の重みだろう。長い避難生活は、家族構成から仕事、教育、さらには人間関係や精神活動に至るまでさまざまな面に影を落とし、簡単に帰還を決められない状況を生んでいる。
そうした心の襞にまで寄り添う支援をできるかどうか。南相馬市の、ひいては全ての原発被災市町村の本格復興の成否はこの一点にかかっていることを強調しておきたい。