e取り調べの可視化 注目したい全過程での試行

  • 2016.09.27
  • 情勢/解説

公明新聞:2016年9月27日(火)付



無実の人が「密室での取り調べ」で自白を強要され、その自白によって裁判で有罪となる―このような正義に反する冤罪事件が許されてはならない。

この冤罪防止に「取り調べの可視化」は不可欠だ。容疑者が取調室に入ってから出るまでの全過程を録音・録画することで不当な捜査から容疑者を守ることができる。

この取り調べの全過程可視化が2019年6月までに施行されるのに向けて、全国の警察は来月1日からその試行を開始する。全過程を可視化する中で、自白偏重の強引な取り調べ手法を転換する努力が期待される。

警察による可視化の試行は08年から始まったが、自白の場面など一部の可視化が主であり、その後、全過程可視化も増えたものの昨年度の全過程の試行件数は50%に届いていない。一部施行では警察側に不都合な場面は記録しないなど恣意的な運用が可能になると強い批判があった。

可視化の導入論議は、警察による自白強要を原因とした冤罪事件が相次いだこの10年間で高まったのだが、警察は消極的な姿勢をなかなか崩さなかった。

その理由として警察は、例えば軽い方の罪を免責し、訴追したい犯罪の自白を取る「司法取引」制度が日本にない以上、容疑者と押したり引いたりしながら自白を取るしかなく、可視化されると警察官も容疑者も構えてしまい人間関係をつくりながらの取り調べが難しくなると訴えてきた。しかし今回、可視化導入で「司法取引」も限定的に認められるのだから、取り調べに工夫の余地もあるはずだ。

国家公安委員長主催の研究会が12年に公表した報告書は、捜査本部が設置された事件のうち、10年の1年間に解決した事件において、取り調べで死体や凶器などが発見され、また共犯者が解明されたケースが約6割を占めていたと報告している。

それでも、冤罪の温床だった密室での取り調べを擁護する理由にはならない。刑事司法の原則は「10人の真犯人を逃がすとも一人の無辜(罪のないこと)を罰するな」である。警察が自白偏重をどう乗り越えるか、国民は厳しいまなざしを向けている。

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