e文化庁移転 京都からの報告(下)
- 2016.10.04
- 情勢/解説
公明新聞:2016年10月4日(火)付
芸術の裾野広げる契機
各地の現状 捉えやすく
人に「光」当てる政策展開に期待
京都造形芸術大学准教授(アートジャーナリスト)山下里加さんに聞く
―文化庁移転が決まった。全国各地の文化行政を研究されている立場から、改めて今回の移転をどう考えるか。
山下里加・京都造形芸術大学准教授 これまで東京に行かないと詳細が分からなかった国の文化政策の情報が、京都で常日頃から収集できるというのは大きいと思う。
一方で京都は、文化財を生かす仕組みに関しては東京をリードしてきた。その京都を含め、関西の文化政策の成果を全国・世界に発信する役割も担ってほしい。文化庁が来ることは、関西での情報の収集・発信の窓口が増えたと考えている。
―発信していく文化政策とは何か。
山下 伝統芸能や文化財そのものではなく、そうしたコンテンツをどう生かしてきたのか。その取り組みの過程を発信していくべきだ。
京都では、文化の担い手の育成に注力してきた歴史がある。明治時代に東京へ首都が移った時、荒廃した都市の再生へまず着手したのは、人づくりに向けた小学校の建設だった。さらに、東京より早く公立の芸術学校を設立している。
―人に光を当てる政策が参考になると。
山下 そう思う。現在も京都市には、空き家を抱えたまま困っている大家と、制作場所や住居を探している若手芸術家をつなぐ事業がある。文化財の保全やアニメ、映画など文化産業を対象とした各種事業はあるが、芸術家という人に「政策の焦点」を当てているのは珍しい。
京都市は1978年に行った「世界文化自由都市宣言」を全ての文化政策の基底部に置いている。あらゆる差異を越え、世界の人々と文化的に自由に交流する都市であらんことを誓ったこの宣言を指標として、約40年間生かしてきた。こうした揺るぎない姿勢も文化庁に見ていただきたい。
―京都に移転する文化庁への期待は。
山下 例えば、障がい者アートやホームレスの人々との創作活動など、新しい文化の担い手へ支援のバリエーションを増やしながら、これまで「東京から」では見えなかった各地の文化の現状を知り、成功事例を日本、世界へ発信してほしい。日本の伝統文化・現代芸術の裾野、煎じ詰めれば担い手を拡大していくことが、今後の文化庁の役割ではないかと考える。
【今回の連載は、関西支局の鷲岡秀明、塚田慎一、岩永博之が担当しました】
やました・りか
京都造形芸術大学アートプロデュース学科准教授。アートジャーナリスト。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。専門は文化による地域創造など。