eノーベル賞 世界リードする日本の研究成果

  • 2016.10.05
  • 情勢/解説

公明新聞:2016年10月5日(水)付



日本の科学技術史に輝かしい1ページを刻む快挙だ。

今年のノーベル医学生理学賞が、東京工業大学の大隅良典栄誉教授に贈られることになった。日本人のノーベル賞受賞は3年連続で、1949年に受賞した湯川秀樹氏から25人を数える。このうち16人が21世紀になってからの受賞だ。日本人の研究成果が世界をリードする時代に入ったといえるのではないか。

大隅氏の受賞理由は、細胞内で不要なたんぱく質を分解、リサイクルする「オートファジー」(自食作用)の仕組みを、分子レベルで解明したことだ。

たんぱく質は、あらゆる生命活動に欠かせない。人間の体内では1日に約300グラムつくられるが、食事からは70~80グラムにすぎない。足りない分はどうするか。自分の細胞の中にある、壊れたり不要になったたんぱく質を分解し、新たにたんぱく質をつくる材料にしているという。

この現象自体は1960年代初めまでに発見されていたが、詳しい仕組みまでは分からなかった。これを大隅氏が解明したことで、新たな治療法の開発が期待されている。

例えば、神経細胞内に異常なたんぱく質が蓄積されるとアルツハイマー病の原因になるが、オートファジーを人為的に活性化させることができれば治療に役立つとみられている。逆に、オートファジーの機能を抑えることで、がん細胞の増殖を妨げる研究も進んでいるという。

人類の未来に希望の光を送る大隅氏の業績を、改めて心からたたえたい。

ただ、忘れてはならないのは、こうした研究は具体的な成果を見通しにくいことだ。大隅氏が酵母の細胞でオートファジーを見つけたのが1988年であったように、基礎研究の分野では長期的な取り組みが欠かせない。国による支援も、この点を十分に考慮すべきであろう。

先の衆院代表質問で公明党の井上義久幹事長は、「官民を挙げて科学技術研究費の大幅な拡充に向けて大胆な目標を掲げ取り組むべきだ」と訴えた。これは、ノーベル賞受賞者らの要望を受けたものであり、科学技術の進歩が人類ならびに日本の未来を切り開くことを強調しておきたい。

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