e熊本地震 「心のケア」待ったなし
- 2016.10.20
- 情勢/解説
公明新聞:2016年10月20日(木)付
文化・芸術で被災者に癒やしと安らぎを
熊本県立劇場 理事長兼館長
姜尚中氏に聞く
熊本地震から6カ月が過ぎた被災地では今、仮設住宅などの住まいの確保が進む一方で、被災者の「心のケア」が喫緊の課題になっている。熊本県の文化・芸術の拠点である県立劇場で理事長兼館長を務める姜尚中氏に、「心のケア」のありようや県立劇場の取り組みなどについて語ってもらった。
「人間の復興」掲げる公明に期待
――熊本地震から6カ月が過ぎました。
私も4月14日に熊本市内のホテルで前震に遭った。突然、部屋に大砲の弾が当たったかのような衝撃に襲われ、壁には大きな亀裂が走った。その後、16日に本震が起きるとは想像もしなかった。県民の心はいまだ、地震の恐怖から解放されていない。
何より、熊本が全国に誇る阿蘇地域の大自然や非常に潤沢な地下水、さらには県民の心の支柱でもある熊本城などが深く傷ついたことで、心のよりどころがグラついてしまった。それが多くの県民が抱える不安の背景にあるように思う。
熊本地震の特徴は、東日本大震災とは異なり、被害が局地的に集中したことだ。熊本市内の繁華街を歩くと、震災前のにぎわいを取り戻しつつある。対照的に、益城町では今もがれきの撤去が進まない地域もある。今後、こうした復興格差が広がってしまうことを懸念している。
――「心のケア」をどう進めるべきでしょうか。
被災者を取り巻く課題は百人百様だ。とりわけ、仮設住宅での暮らしを始めた被災者の多くは、入居期限が終わる2年後の住まいをどうするか、生活再建に向けた不安にさいなまれている。
さらに、住民同士のつながりが希薄なことも問題だ。集会所をうまく活用できている団地もあるが、高齢者の孤立化やひきこもりが深刻な団地も少なくない。住民の間で情報交換できる環境整備を早急に考えていかなければならない。
同時に、子どもたちには、地震のトラウマから暴力的な言葉を発するなどの変化が表れている。震災体験が成長過程に与える影響を考えると「心のケア」は待ったなしの状況だ。
きめ細かく当事者に寄り添った支援を行うためには、行政的に解決できる部分と、そうでない部分を立て分けて考える必要がある。ボランティアやNPO、NGO団体など、市民社会の底力が試されている。こうした団体と行政の間にある"隙間"を埋めるコーディネーターの存在も欠かせない。東日本大震災の被災地でも、これができているところは被災者の苦悩に寄り添う具体的な心のケアができている。
――「文化・芸術」の拠点・県立劇場の役割は。
県立劇場は8月25日の再開まで、応急工事などで使えなかったのでアウトリーチ(訪問支援)に取り組んだ。こころの復興推進事業「アートキャラバンくまもと」として、落語や伝統芸能、弦楽四重奏など、被災地の学校や施設などで公演を行ってきた。
今後、被災地の文化施設にも職員を派遣して、地元だけではやれないイベントなどを共催できないか。とりわけ、子どもたちに対象を絞った催し物ができないか、5カ年計画ぐらいで考えている。
発災から20年が過ぎた阪神・淡路大震災でも被災者の心が震災の影響から完全に脱却できていないように感じる。熊本地震も例外ではない。長期的な視点に立って文化・芸術による「心のケア」を社会事業として積極的に行っていくべきだ。
県立劇場としても、おでかけ公演やワークショップなどを通して可能な限り、被災者の心を癒やせるように取り組んでいきたい。
――公明党に対する要望はありますか。
公明党は発災直後から、中小・零細企業の支援など、政治の光が届きにくいところに率先して手を差し伸べている。今後も続けてもらいたい。同時に、県立劇場として被災地に多くの職員を派遣できるよう、マンパワーの確保とともに、長期的に取り組むための財政的なサポートを国や県に働き掛けてほしい。
復旧・復興においては、インフラ整備などが優先されることは当たり前だが、心などの無形なものにこそ早く手を打つ必要がある。「人間の復興」「心の復興」を掲げる公明党の取り組みに大いに期待している。
【略歴】
1950年、熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位満期取得退学。専攻は政治学・政治思想史。東京大学名誉教授。聖学院大学学長などを経て2016年1月より現職。著書に『悩む力』『心』『心の力』ほか多数。