e農業改革の展望
- 2017.03.01
- 情勢/解説
公明新聞:2017年3月1日(水)付
他産業とマーケット創造
収入保険導入 リスクへの備えは重要
中嶋 康博 東京大学農学部教授に聞く
農業の競争力強化に向け、政府は8本の農業改革関連法案を今国会に相次ぎ提出し、早期成立をめざす。その背景となる日本農業の現状や、農業改革の展望について、東京大学農学部の中嶋康博教授に聞いた。
農地と水の維持・管理が課題
―日本農業が直面している課題は。
中嶋康博教授 国民1人当たりの飲食料品への支出額やカロリー摂取量は、1990年代をピークに年々減り続けている。人口減少に伴う消費低迷や国内市場の縮小を背景に、これからはさらに売り上げが落ち込む。
一方、食料自給率(カロリーベース)は約40%で、6割を海外からの輸入に依存している。「輸入品を押し返せば国内産のマーケットは広がる」とも考えられるが、消費の減少と相まって、そう簡単にはいかない。
日本の農業は「とりあえず作れば農協に全部引き取ってもらえる」という従来の単純なビジネスモデルとまったく違った発想で対応しなければならない時代に入っている。
―いかに農業振興を図っていくべきか。
中嶋 良いものを"作る"努力はこれからも必要だが、売れ残って値崩れを起こしては意味がない。良いものを"売る"工夫が何よりも必要であり、農業だけでなく、流通や加工、外食などさまざまな産業を加えた新たなバリューチェーン(価値連鎖)の構築が求められる。
さらなる国内市場の縮小に備えて、成長する海外市場への輸出とともに、高齢化社会の課題解決となる"介護食"など国内での新たなマーケットの創造にも目を向けるべきである。そこでは他産業と知恵を出し合い、イノベーションを起こすことがポイントになる。
―人口減少は消費低迷とともに、農業の担い手不足に直結しているが。
中嶋 生産年齢人口がどんどん減り、働き手を獲得するために国内産業が熾烈な競争を展開する時代になる。農業ではこれまで、親から子への継承が基本だったが、それだけでは全く足りない。栽培や収穫、集荷、袋詰めなどの省力化をICT(情報通信技術)や機械で徹底的に進めながら、収入面の安定を図るなどして、意欲のある新規就農者を迎え入れる環境を整えることが非常に重要だ。
―バリューチェーン構築などのほか、政府・与党は生産現場の強化にも重点を置いている。
中嶋 生産現場では農地や水の維持・管理が大切だ。しかし、高齢化や後継者不在に伴って営農を退いた「土地持ち非農家」が増えたため、農村の全員で維持・管理していた昔とは状況が変わっている。農地中間管理機構(農地バンク)を通じた担い手への農地集積を円滑に進める取り組みも必要だ。
―経営安定対策として公明党が推進してきた収入保険制度に関し、2018年度から導入する法案も今国会に提出される。
中嶋 農作物の価格下落時などに農家の収入減少を補う「収入保険」を導入し、リスクへの備えを用意することは、政策上、非常に大事だ。野菜などの新規の作物も対象に含まれる。日本の農業を支える人を守る観点から見れば妥当だと感じる。
農家の単なる経営安定にとどまらず、農家の新たな挑戦を後押しする役割も担うことができる。