eコラム「北斗七星」
- 2017.03.09
- 情勢/社会
公明新聞:2017年3月9日(木)付
山口県のローカル放送局、山口放送が製作した映画『ふたりの桃源郷』を見た。電気も水道も通っていない、中国山地の山奥で暮らす高齢者夫婦を25年間にわたって撮り続けた長編ドキュメンタリー◆高度経済成長期、戦後に開墾した山を離れ大都会で子どもを育て上げた夫婦は、還暦を過ぎて山に戻る。わずかな畑を耕す自給自足の暮らし。何もない、といえば何もない。が、大事なものは全てここにある。自然の中で生きる人間の美しさが胸に迫る、キネマ旬報の「2016年文化映画ベスト・ワン」に違わぬ傑作である◆「過疎」という造語は中国山地で生まれた。民俗学者の宮本常一は、過疎化が進む1960年代に、地域の中心に学校や役場を集め、バラバラに散らばっている農家をそこへ繋いでいくような町づくりの必要性を説いている。これは現在、国土交通省が推進する「小さな拠点」構想そのもので、先見の明に驚く◆同構想は「大規模・集中」の社会原理のもとで、切り捨てられてきた過疎地域に、まち・ひと・しごとを取り戻し、持続可能な集落地域をつくる取り組み。普及に期待したい◆「山林に自由存す」(国木田独歩)という。桃源郷とまでは言わないが、自然と調和した「日本の田舎」の永続は、この国の将来に安心と希望をもたらすはずだ。(中)