e災害時に迅速な避難促す
- 2017.03.29
- 情勢/解説
公明新聞:2017年3月29日(水)付
拡充される防災気象情報
東京大学大学院情報学
環総合防災情報研究センター
田中淳センター長に聞く
27日に成立した2017年度予算には、地域の防災対応力を高めるため、気象情報を充実させるなど情報発信の強化策が盛り込まれている。その狙いや私たちが災害時に取るべき行動について、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの田中淳センター長に話を聞いた。
危険度を時系列で表示
警報級の予報 数日前から提供へ
――防災気象情報はどう変わるのか。
これまで気象庁がホームページ上で発表する気象警報や注意報の内容は、文章による表示のみで、利用者にとって分かりづらいという課題があった。そこで新たに、今年の梅雨や台風などで降水量が増える時期までに、雨量や風速などの予報と併せ、災害発生の危険度を時系列で色分けして表示するなど、より分かりやすくする。従来の文章形式による表示も継続して行われる。
また、重大な災害が発生する警報級の現象が発生する恐れがある地域に「警報級の可能性」として、毎日の天気予報(1日3回)で数日前から情報提供するなど、国民の間で災害発生の危険性が広く共有されるようにする。
――昨年末からは避難勧告などの避難情報の名称が変更されている。
昨年8月、台風10号による水害では岩手県岩泉町にあるグループホームの入所者9人が犠牲となった。この台風被害について国の報告書では、「避難準備情報」が早い段階から発令されていたにもかかわらず、住民にその意味が正しく理解されておらず、適切な避難行動が取られなかったことが原因だと結論づけている。
この教訓を踏まえ、国が避難準備情報の新名称を「避難準備・高齢者等避難開始」とするなど、各避難情報の名称を変更した。災害時に自力での避難が難しい高齢者や障がい者などの「要配慮者」は、避難行動に時間を要し、被害に遭う可能性が高い。私たちは今一度、このことを認識しなければならない。
さらに、新名称に高齢者等の「等」が含まれた意味は、高齢者だけでなく豪雨時のアンダーパス(立体交差して、掘り下げられている道路)など災害に巻き込まれやすい場所にいる人を指すことも理解してほしい。
「勧告」空振り恐れず発令を
――災害対応に臨む自治体の姿勢は。
今年1月、国は避難勧告などに関するガイドラインを改定した。
避難勧告の発令は、自治体にとって常に「空振り」のリスクがある。行政はこの空振りを恐れるあまり、発令をためらう傾向がある。このため、今回の改定では災害対策基本法に基づいた上で、地域の実情に合わせ、具体的な発令基準を作成するよう自治体に求めている。
自治体には住民の命を守るため、災害情報を伝える責務がある。例えば、兵庫県豊岡市は、台風接近前から注意喚起を複数回にわたり、実施している。その内容は避難の方法や避難情報の意味を伝え、具体的な行動が取れるように工夫している。
実際に、2014年10月の台風発生時には「直ちに命を守る行動を取ってください。命を守る行動とは、指定避難所への避難だけでなく、ご近所、ご親戚への避難、またご自宅2階の山から離れた部屋で過ごすなど、とにかく山から離れることが必要です」と防災行政無線で一斉に放送した。同市の取り組みは国内で最高峰と言える。
――私たちが心掛けることは。
災害に備え住民に避難行動を促す防災気象情報はすぐには伝わらない。
また、被害が広範囲にわたる台風や局地的に狭い範囲で降る豪雨など、災害の起こり方にはさまざまなパターンがあり、気象庁の技術でも予測できない現象も起きている。
そうした中で、自治体は何千、何万人を対象に避難情報を発信する。生活する場所や家族の状況は住民それぞれで違うが、災害発生時に行政の出す情報を基に、常に命を守る行動は何なのかを考え、早め早めの行動を取ることが重要となる。
たなか・あつし
1954年生まれ。東京大学大学院社会学研究修士課程修了。東洋大学社会学部教授などを経て、2008年から東京大学大学院情報学環教授。政府の「防災気象情報の改善に関する検討会」座長など務める。16年に防災功労者内閣総理大臣表彰を受賞。