e栃木雪崩死亡事故 万一の備えは十分だったか
- 2017.04.07
- 情勢/解説
公明新聞:2017年4月7日(金)付
栃木県那須町で登山講習中の高校生ら8人は、なぜ雪崩に巻き込まれたのか。
講習会の責任者による記者会見や、同県警による捜査からは、発生から10日余り経った今も新たな事実が浮かび上がってくる。大事故につながった要因を丁寧に洗い出し、今後の教訓を導き出すことが再発防止に何より重要だ。
この点で、講習会を主催した県高校体育連盟(高体連)登山専門部の関係者が「絶対安全と判断した」と明言していることは、注視せざるを得ない。
例えば、雪崩が起きた場所は過去に訪れたことがあり、危険との認識はなかったという。遭難者の位置を知らせるビーコン(電波受発信器)を高校生らが持っていなかったのは、積もった雪をかき分けて進むラッセル訓練であれば問題ないとの認識もあった。引率教員には、登山経験豊富なベテランもいた。にもかかわらず事故は起きた。
事故現場の地形を見た専門家からは、雪崩が起きやすい典型的な斜面との指摘もある。その危険性を見抜けなかった背景に、実績と経験への過信はなかったであろうか。
大事故が起きる時には、往々にして基本的なルールが守られていないことが多い。
実際、今回の訓練が行われた場所は国有林だが、林野庁は国有林で訓練などを行う場合に「入林届」を出すよう呼び掛けている。ところが、県高体連は、これを提出していなかったという。
雪崩が起きた付近は「雪崩危険箇所」となっていることから、入林届が出ていれば、現地の森林管理署が事前に注意喚起することもできたであろう。
非常時の連絡手段についても検証が必要だ。雪崩発生から110番通報まで1時間近くかかっている。救助活動の遅れにつながったことが悔やまれてならない。
全国高体連の統計では、登山部の人気は年々高まっており、2016年度時点の部員数は全国で約1万3000人に上り、10年間でほぼ倍増した。中には、高校で初めて登山を経験する生徒も少なくないだろう。痛ましい事故が繰り返されることのないよう、事故原因を徹底的に究明・検証してほしい。