e「テロ等準備罪」法案 識者に聞く
- 2017.04.13
- 情勢/国際
公明新聞:2017年4月13日(木)付
「日本が抜け穴になれば、テロ組織はそこを狙う」
公共政策調査会 板橋功 研究センター長
テロなど組織的な重大犯罪を防止するため、それを計画し準備した段階で処罰できるようにする「テロ等準備罪」の新設をめざす組織犯罪処罰法改正案(「テロ等準備罪」法案)が衆院で審議入りした。同法案を成立させるなど国内法を整備し、日本が国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結する重要性について公共政策調査会の板橋功研究センター長に語ってもらった。
早く国内法整備し締結を
国際社会から信頼問われる 資金源対策、情報交換に有効
TOC条約の重要性
――TOC条約を早期に締結する必要性は。
板橋 TOC条約が2000年11月の国連総会で採択されて以来、加盟国は今年3月現在で187カ国・地域まで増えている。日本を除く先進7カ国(G7)は既に締結済みで、国連加盟国で未締結なのは残り11カ国となった。イラン、ブータン、南スーダン、パラオ、ソロモン諸島、ツバル、フィジー、パプア・ニューギニア、ソマリア、コンゴ、そして日本だ。北朝鮮ですら昨年締結している。
実は、2000年12月にイタリアのパレルモでTOC条約の署名会議が開催された時に日本は署名している。03年5月には国会の承認も得た。各国から「日本は何をやっているんだ」と言われても仕方がない。
――日本の信頼性が問われていると。
板橋 日本には、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金対策などを進める国際的な政府間組織であるFATF(金融活動作業部会)から08年10月、国内担保法の整備と条約の締結を求める勧告が出された。さらに14年6月にも、異例の声明を受けている。これは、わが国の信頼性が問われる問題であり、深刻に受け止めなければならない。20年の東京五輪・パラリンピックの有無にかかわらず、国内法を整備し、早く条約を締結すべきだ。
――TOC条約の締結に新たな法整備は不要との主張もある。
板橋 TOC条約は、重大な犯罪(長期4年以上の懲役・禁錮刑の罪)を行うことの「合意」、または、組織的な犯罪集団の活動への「参加」の少なくとも一方を犯罪とするよう求めている。しかし、日本の現行法には、条約が求める「重大な犯罪の合意罪」に当たる罪は一部の犯罪にしか規定がなく、「参加罪」は存在しない。一部から、国内法を整備しなくても条約を締結できるという意見があるが、そうだとしたら、なぜ早く締結しなかったのか。やはり現行法では条約を締結するのは難しいのだろう。
これに関し、条約締結に当たって国内法を新設した国は187カ国のうち2カ国しかないと批判する人もいるが、もともと英米法系の国だと「合意罪」、大陸法系の国だと「参加罪」が整備されており、187カ国は基本的に、どちらかの法律を持っている。今回の「テロ等準備罪」法案に反対している人の論理から言うと、この187カ国は著しく人権を侵害している国となってしまうが、果たしてそうだろうか。
――テロ対策で重要なことは。
板橋 TOC条約締結の必要性で考えなければいけないのは、日本は既にテロ組織の標的になっているということだ。過激派組織「イスラム国」(IS)は、彼らの機関誌で日本をターゲットと名指ししている。この機関誌は世界中のシンパやテロリストがオンラインで見ることができ、影響は非常に大きい。当然ながら日本は警戒をしないといけない。さらに、東京五輪に向けて国際的に日本への注目が集まる中で、テロの脅威度も上昇し続ける。
TOC条約は、国際的な組織犯罪を防止し、これと戦うための協力促進を目的としている。この条約は組織犯罪の資金対策が中心であり、条約に加盟すれば直ちにテロを未然に防げるかと言えば、必ずしもそうではない。しかし、捜査共助や犯罪人の引き渡し、情報交換などで大きなメリットがあり、テロ対策にも有効な条約だ。
01年の9.11米国同時多発テロ後は、テロ組織の資金源対策が国際的に非常に重要なイシュー(問題)になっている。その意味からもTOC条約はテロ対策に寄与する。
今、テロ対策で一番大事なのは、インテリジェンス(情報)だ。インテリジェンス機関の情報交換において何より重要なのは信頼性であるが、TOC条約を批准していない日本との情報交換に各国が躊躇する可能性がある。
各国がテロ対策で協調する中で日本が抜け穴になれば、テロ組織はそこを狙ってくる。国会で十分な議論を尽くして人権やプライバシーに関する必要な歯止めはかけた上で、早く国内法を整備し、条約を締結してほしい。