e鉄道の安全 "リスクの芽"摘む不断の努力を
- 2017.04.25
- 情勢/解説
公明新聞:2017年4月25日(火)付
悲惨な事故を二度と起こしてはならない。
2005年4月25日。兵庫県尼崎市のJR福知山線で、通勤・通学客で混み合う7両編成の快速電車が急カーブを曲がりきれず前5両が脱線。107人が死亡し、562人が負傷した。JR発足後としては最悪の鉄道事故だった。
取材で見た現場の惨状は、想像を絶していた。線路脇のマンションの壁にペシャンコになってへばり付いていたのは、1両目ではなく2両目だった。先頭車両はマンション1階の駐車場に突っ込んで原型をとどめていなかった。
世界で最も安全とさえいわれていた日本の鉄道で、なぜこれほどの大惨事が起きたのか。1995年の阪神・淡路大震災から10年目だったが、改めて"安全神話の崩壊"を痛感せずにはいられなかった。
事故原因は既に明らかになっている。
一つは運転手による速度超過である。この運転手は、事故直前の伊丹駅で停車位置を越えるオーバーランをしていた。当時のJR西日本では、仕事のミスに対し「日勤教育」と呼ばれる懲罰的な教育が行われており、それを免れる言い訳を考えていた運転手が、事故現場手前で減速しなかった可能性が指摘されている。
もう一つは、速度超過などの際に自動的に列車を停止させる自動列車停止装置(ATS)が設置されていなかったことだ。JR西日本では04年度末までの設置が検討されていたが、経営側の判断で05年6月まで延期されていた。早く設置していれば事故を防ぐことができた可能性があり、この点は今でも悔やまれる。
事故を受けて国土交通省は、ピーク時に10本以上の電車が走る路線などを対象にATSの設置を全国の鉄道事業者に義務付け、設置率は既に100%に達している。JR西日本の日勤教育も批判を受けて見直された。当然である。
当時を振り返って改めて指摘しておきたいのは、どれほど技術が進歩してもヒューマンエラー(人的ミス)は避けられないという点だ。
だからこそ、あらゆるリスクを想定し、小さな芽のうちに摘み取るという不断の努力が欠かせない。ましてや多くの乗客の命を預かる鉄道会社であればなおさらである。