e補助犬への理解 もっと深めて
- 2017.05.12
- 情勢/解説
公明新聞:2017年5月12日(金)付
法施行から15年 現状をルポ
公明党が推進した「身体障害者補助犬法」が施行され、10月に15年を迎えます。障がい者にとって"体の一部"といえる補助犬ですが、同伴を拒否する飲食店や医療機関は、いまだ少なくありません。現状の課題を探るため、盲導犬を連れた視覚障がい者と共に歩いたルポと、日本身体障害者補助犬学会の髙栁友子理事へのインタビューを、「点字こうめい」第74号(5月発刊)から紹介します。
行政や民間が協力し合い活躍できる環境つくろう
日本盲導犬協会の森川加奈子さんは先天性の病気で目が不自由なため、盲導犬と一緒に歩いています。現在、同協会の神奈川訓練センター(横浜市)に勤務し、最寄り駅の東急東横線・綱島駅まで電車を使っています。
盲導犬はカーナビのように目的地まで連れて行ってくれるわけではありません。森川さんは駅構内のルートを頭に描きながら、音声案内などを頼りに盲導犬に指示を出します。エスカレーターに乗る直前、盲導犬が一旦歩みを止めます。そして「オーケー、ゴー」という指示に従って、ゆっくり乗ります。
森川さんは以前、駅ホームで利用客が盲導犬の頭をなでて気を引いたため、勝手に動き出し、どちらが線路側か方向感覚を失ってしまい、「前に出ていいか、後ろに下がっていいかも分からなくなった」ことがあります。この時は携帯していた白杖を使うことで事なきを得ました。以来、森川さんは、最短距離で乗り降りできるよう工夫しています。
身体障害者補助犬法は盲導犬のほか、手足が不自由な障がい者を手助けする「介助犬」、聴覚障がい者に音を伝える「聴導犬」の3種を補助犬と規定。補助犬の使用者には衛生面や健康の管理、予防接種や検診などが徹底されています。
一方で、公共施設や交通機関、飲食店、医療機関などに対し、補助犬の同伴を拒んではいけないと定めています。しかし、森川さんはこれまで受け入れ拒否を数多く経験してきました。「店内はガラガラなのに『空いている席は全部予約で埋まっています』と断られたこともあります」と悔しそうに話します。
森川さんの来店をきっかけに補助犬への理解を深めたという飲食店店長の實川智哉さんは「補助犬がとても利口だと改めて実感しました。『別の店で断られたので来店した』と森川さんに言われたとき、自分の店を選んでもらえてよかった」と話します。森川さんは、「法律があるから仕方なく受け入れる店よりも、気持ちよく迎え入れてくれるところでは料理の味が増す気がします」と笑顔を見せていました。
補助犬の認知度を上げるには、多くの人が実際に活躍を目にする機会が必要です。しかし、補助犬の増加ペースは補助犬法施行直後と比べると、緩やかなままです。厚生労働省によると、2017年4月1日時点の盲導犬は966頭、介助犬は70頭、聴導犬は75頭にとどまっています。
20年東京五輪・パラリンピックを控え、補助犬を連れて来日する外国人客の増加が見込まれます。行政や交通機関、商業施設などが協力体制をとり、補助犬や使用者への、より一層の理解が求められます。
人権意識を浸透させ助け合う社会へ
日本身体障害者補助犬学会理事
日本介助犬協会常務理事 髙栁 友子さんに聞く
―身体障害者補助犬法の施行から15年を迎えます。
髙栁理事 法律ができたことで、補助犬を同伴した行動が「お願い」から「権利」に変わったことは大きな前進と言えます。しかし、補助犬の認知度はいまだ低く、政府や自治体、関係団体が一丸となった周知が必要です。
特に、補助犬の同伴を拒否する飲食店や医療機関がまだあり、トラブルも少なくありません。
―どうして同伴拒否がなくならないのでしょうか。
髙栁 同伴を拒否する人たちの補助犬のイメージは、街中で見かける犬の姿なのでしょう。しかし、補助犬はきちんと訓練を受けており、利用者にも補助犬にブラッシングやシャンプーなどのケアを行うよう徹底されています。
―今後、社会に求められることは。
髙栁 人権意識を社会に浸透させることが必要です。障がい者にとって、補助犬は体の一部と同じ存在です。
障がい者の社会参加や自立を促すには、さまざまな方法を選ぶ自由に加え、本人の意思が尊重されなければなりません。それが補助犬法や「障害者差別解消法」がめざすところです。
こうした人権意識を社会に浸透させずに、「スロープを付ける」とか「点字のメニューを用意する」といった各論的な解決策では、根本的な解決には至りません。
私たちの誰もが障がい者になる可能性があります。人ごととしてではなく、障がい者にとって優しい社会とは何かを、一人一人が考えていくことが大切ではないでしょうか。
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