eサイバー防衛の専門家養成

  • 2017.05.17
  • 情勢/社会
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公明新聞:2017年5月17日(水)付



2つの拠点が始動



コンピューターに不正侵入し、データの改ざんや破壊などを行うサイバー攻撃。先週から世界各地で大規模攻撃による被害が広がっているように、脅威は日増しに高まっている。こうした中、日本は、悪質かつ巧妙化するサイバー攻撃からの防衛に当たる専門家を養成するため、「ナショナルサイバートレーニングセンター」と「産業サイバーセキュリティセンター」を今年4月に相次いで立ち上げた。


ナショナルサイバートレーニングセンター


若者を世界水準の人材に 最先端の開発手法など活用

ナショナルサイバートレーニングセンター(園田道夫センター長)は、総務省が所管する国立研究開発法人・情報通信研究機構(NICT)内に新設された。

同センターでは、自治体職員らを対象に防御演習をしたり、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてセキュリティー人材を育成するとともに、公募で選んだ25歳以下の大学生らを1年間かけて、高度なセキュリティー技術を身に付けた人材へと育てることが事業の柱だ。

募集は4月末に締め切られ、定員約40人を大きく上回る350人以上が集まった。参加費用として約50万円かかるが、学生の場合は無料としたこともあり、予想以上に応募者が殺到したという。

6月10日から養成講座がスタートする。サイバー攻撃の検知、解析、防御などのシステムについて、テーマを決めて国内の一流の研究者や技術者と共に集中的に開発を行う年5回の合宿を軸に、それ以外の期間は自宅などでインターネットを通じて遠隔で継続的に開発を行う。

NICTが収集した実際の攻撃データや最先端の開発・解析手法などが活用できるのも利点だ。

現在、日本国内で出回るセキュリティー対策ソフトの主流は海外製品だ。これらを単にうまく使いこなす"運用者"にとどまらず、将来的に品質で勝る製品を生み出す"開発者"を育成することをめざす。

同センター・サイバートレーニング研究室の衛藤将史室長は、「危機管理の根幹を海外に強く依存していては、いざという時に自分たちの社会の安全を守れない。サイバーセキュリティーに関する開発や創業で世界に対抗できる人材を輩出していきたい」と語っていた。


産業サイバーセキュリティセンター


企業の対応力を強化 高度な情報・制御技術を習得

経済産業省が所管する独立行政法人・情報処理推進機構(IPA)が発足させたのが、「産業サイバーセキュリティセンター」(中西宏明センター長=日立製作所会長)だ。

ここでは、電力やガス、鉄道などの重要インフラを担う企業から約80人を集め、防衛力強化に当たる専門家を育てる。受講料は300万円。訓練は今年7月から来年6月までの1年間、平日9時から17時まで行われる。米国やイスラエルなどサイバー防衛先進国から講師を招き、最新の知識と経験を学ぶ。

また、訓練では、IT(情報技術)、OT(制御技術)双方に関する高度な知識を身に付けることにも力を入れるとしている。同じ企業であっても、ITに携わる人は顧客情報の漏えい防止を何より重視する一方、OTに関わる人はシステムが停止する社会的影響の大きさを考慮し、できるだけ稼働を継続させたいと考えがちだ。そのため、双方のセキュリティーに対する優先順位が異なってくることが少なくない。

片岡晃・副センター長は、「重要インフラ分野で求められるセキュリティー人材は、IT、OT双方の観点から、現場実務者の意見をまとめ上げ、必要な戦略を経営陣に提言できる専門家だ。センターがこうした"橋渡し役"を一人でも多く育てたい」と語っていた。


公明、開設を強力に後押し


16年で13.2万人が不足

NICTの観測では、30万カ所の未使用IPアドレス(ネット上の住所)への無差別なサイバー攻撃関連の通信は、16年は過去最高の約1281億件だった。調査を始めた05年(約3.1億件)の400倍を超える件数だ。

特に、ここ数年は攻撃が激増し、手口も巧妙化している。先週、世界を襲った大規模なサイバー攻撃は、「ランサム(身代金)ウエア」と呼ばれるウイルスが使われた。

感染すると、パソコン内のファイルを暗号化して使えないようにし、復旧する見返りとして金銭を要求する不正プログラムだ。

サイバー攻撃は、世界的な注目が集まる五輪開催国に集中する傾向があり、今後、日本が格好の標的にされることも十分予想される。

しかし、経産省によると、16年時点で情報セキュリティー分野の人材は約28.1万人で、約13.2万人が不足しており、20年には不足数が約19.3万人まで拡大すると試算している。世界レベルの対応力を備えた専門家の育成が急務だ。

今回の二つのセンターは、公明党の推進で成立したサイバーセキュリティ基本法に基づく国家戦略に沿ったものだ。サイバー防衛について公明党は、特に人材育成の抜本強化を強く求め、センター開設を後押ししてきた。

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