eコラム「北斗七星」
- 2017.06.19
- 情勢/社会
公明新聞:2017年6月17日(土)付
錬金術師が豪農に持ち掛けた。「金1両と黄銅9両に水銀、薬種を加え、熱すると金10両になる」。豪農は土蔵に炉を造り、金1000両を託すが......。幕末の小説家、滝沢馬琴の『近世説美少年録』に出てくる◆卑金属を貴金属に変える錬金術は、中世ヨーロッパで盛んに研究が進んだ。近代科学の基礎となるが、実際には成功しない。福岡を舞台に"闇の錬金術"が横行している◆多くの国で非課税の金塊取り引きは、日本では8%の消費税がかかる。犯罪集団や暴力団はここに目を付けた。香港などで購入した金塊を韓国経由で福岡に密輸、転売し、消費税分の利ざやを荒稼ぎしているようだ。航空運賃や運び屋などの経費が2%としても、密輸を12回繰り返せば元手が2倍に膨らむ◆取り引きに絡む強盗も起きている。博多駅で昨年、警察官を装ったグループに7億6000万円相当の金塊が奪われる事件が発生。今年4月には、金塊購入資金3億8000万円の強奪事件が起きた。見たことも触れたこともないが、何億円が身近を巡っていることか◆アジアの玄関口として、人情味にあふれ、歴史と風格がある福岡の印象が深く傷付けられている。金塊にまつわる重大犯罪を防ぎ、イメージ回復につなげたい。テロ等準備罪法が成立した意味は、そこにもある。(也)